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放課後の図書室、校庭を見渡せる彼の指定席をじっと見つめる。妄想の中に現れる彼はとても穏やかな表情でいつもの様に一人、静かに本と向き合う。
「ミズキ――、
ねぇ、聞いてるの? ミズキ」
「あっ……、ごめん」
「もうっ、何度も呼んでるのに、しっかりしてよ」
時計の針へと視線を向けると既に下校時刻を過ぎていた。彼の死を悼むあまり図書係の仕事をこなすことなく経過した二時間。
『助けて……』
「えっ、朱里、
……、
今、何か言った?」
「どうしたの? 」
「ごめん。
……、
朱里、私……」
確かに耳にした筈の救いを求める声。だが一緒にいる朱里には聞こえてはいなかった。
「いいって、あんなことがあった後だし、それに今日は貸出しも返却も殆ど無かったから、皆ゆっくり本なんて読む気になれないのも無理はないよ。それより大丈夫?」
「……うん」
そう答えたミズキの瞳は赤く染まりまだ滲み出る涙を拭う都度、大きく腫れあがりを増していた。
閉じられた図書室の扉、鍵を手にミズキは朱里へと作り笑顔で声を掛ける。
「今日は何もしていないから、鍵、私が職員室に戻すね。朱里先に行って、いつもの宜しくねっ」
駅までの帰り道、校内の自動販売機で温かな飲み物を手に語り合う事が日課となっていた二人。ミズキのお気に入りは濃厚ミルクのカフェラテだ。下足室で落ち合う約束を交わし二人は別々の目的地へと歩む。
「あっ、携帯忘れたっ」
二階職員室へと駆け下りる階段、不意に過る記憶により思わず一人で声を発すると同時に踊り場で足を止め踵を返す。懸命に図書室へと戻り駆けゆく時間は、唯一全てを忘れる事が出来る瞬間でもあった。
『――どうして?
消灯、施錠した筈なのに……』
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