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平静を装い、足を一歩前に踏み出す。
男の手を払い除けた私は強気そのものだった。
「私はこの子の父親だ。お前の方こそ何しに来た?」
すると、男は意外にも軽く舌打ちするだけで大人しく引き返していく。
小さな後ろ姿が見えなくなるまで、依然緊張感は漂い続けた。
少女は顔の半分だけを私の後ろから出すも、身体は素直に硬直している。
あの男に関しては通報するまでもない。直に捕まる。
第一、警察と接触すれば面倒なことになる。
少女の方を振り返った私は屈んで目線を合わせた。
「無事でよかった。知らない男に付き纏われて怖かったろう」
労いの言葉を受け、鼻水を啜りながら頷く少女。
やつれた彼女には若さに見合う元気が感じられない。
どうやらとても腹を空かせているらしかった。
愛情を込めて、あどけない頭を撫でる。
女の子には優しく。そう、優しくだ。
「レストランに連れて行ってあげるよ。何が食べたい?」
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