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ジャラジャラと音をたて、鎖で繋がれたブレードがGORI-1000の元へと戻っていく。
弾を無駄撃ちしないのは、人間が遠隔操作している証拠だろう。
隊長が塀越しにブレードで貫かれた事から、熱感知や赤外線センサーが搭載されていると考えるべきか・・・なら、まずはこれが最良の一手だ。
ムツキが取り出したのは、赤リン発煙弾と呼ばれる投擲弾だった。
通常の発煙弾は赤外線センサーで透過されてしまい目眩ましにならないが、赤リン発煙弾なら透過されない。
発煙時の熱、煙幕を利用しエリーがライフルをとれるように塀の中、外に煙幕を焚き目眩ましをする。
「今だ、エリー!」
エリーはムツキの合図と共に車に走る。
車を攻撃されないよう、パルクールで塀に登ったムツキは煙幕の中から拳銃でGORI-1000を威嚇射撃する。
勿論、ムツキも煙幕でGORI-1000の正確な位置は分からないが、先程耳にした鎖の音と貸すかな機械の駆動音を便りに発砲していた。
現場から1キロほど離れたトレーラーのコンテナ内でモニターを見ながら操作している肥満体型でオカッパヘアの黄色いセルフレーム眼鏡をかけた軍服姿のソバカス顔テロリスト・・・ロニィ・デッブは互いに悪い視界の中でも銃弾を当ててくるムツキに驚いていた。
「当て勘、ヤバない?だけど、その拳銃はサプレッサーついてないでしょ?マズルフラッシュでわかるんだよ!塀の上だろ?」
大きな駆動音を聞いたムツキは機関銃を構えた事を悟り、塀から飛び降りる。
機関銃の激しい銃撃で塀が破壊され、破片が飛び散った。
間一髪で機関銃の銃撃を回避したムツキは呼吸を整え、次の行動に移る。
「ヒットした感じが無い・・・かわしたのか!?」
煙幕が薄れていく中、ロニィはGORI-1000を前進させ塀の中を覗き見る。
次の瞬間、足元に転がっていた手榴弾が爆発した。
「置き手榴弾かよ!?動きが読まれてる!」
手榴弾の爆発によりGORI-1000の右脚が半壊しバランスを崩す。
それでもロニィはモニターに映ったムツキに照準を合わせようと操作する。
しかし、そこを屋上にあがったエリーがライフルで狙撃し、頭部を撃ち抜く!
「クソ、ヘッドショットかよ!モニターがイカれた・・・おい、撤収だ!」
ロニィは治安部隊制圧後に突撃する予定だった仲間達に指示を出し、トレーラーを発進させた。
スマートフォンを手に取り、ロニィは納得いかないといった表情で通話を開始する。
「作戦失敗だ・・・3killしたが、残り二人にやられた。ベテラン?いや、かなり若い奴だったぜ。何、サブモニター?バカ言ってんなよ!あんな予算で、そこまでやれる訳ねーだろ」
通話相手に悪態をつき、通話を終えたロニィは腕組みしながら溜め息を吐いた。
一方、塀から飛び降りた際に飛び散った破片が腕をかすめ、傷を負ったムツキはスーツの上着を脱いで傷口に止血剤を塗りながらフガヤマの死体へと歩み寄る。
そして、自分の上着をかけた。
「君と過ごした訓練期間、楽しかったよ」
フガヤマの死を悼むムツキにエリーが声をかける。
「ムツキ、怪我は!?」
「大した事は無いよ。それより、助かった・・・ありがとう」
ムツキに礼を言われ、エリーは頬を赤らめた。
「それこそ、大した事じゃないわよ!ムツキがあれだけやってくれたのにヘマする訳にはいかないからね!」
ムツキは本部に連絡し、念のために増援を要求・・・しかし、テロリスト達が再び精肉工場を攻撃する事は無かった。
翌日、本部に報告書を提出したムツキとエリーの元に深井博士と治安組織のエースであるリチャードが顔を見せた。
ムツキとエリーは、背筋を伸ばして敬礼する。
「そんなに固くならなくても良い。あの精肉工場には、大切な抗体が保存されておった。良く、守り抜いてくれたのう・・・特に、ムツキ君だったかな?君の活躍あっての事だと聞いておる」
「・・・隊長、先輩、友人達の力があってこその結果でした」
そう言って、ムツキはエリーの方を見る。
エリーは少し照れくさそうにムツキを見返した。
「謙遜するなよ。現場を見たが、あんなモンスターマシン相手に良くやったな。教官の言うとおり、君は逸材だ」
リチャードはサングラスを外し、ムツキにニカッと笑いかけた。
サングラスで隠れていた横一線についた顔の傷跡と白人男性なのに東洋人のような真っ黒な瞳が彼の特徴。
「治安組織の伝説・・・リチャードさんにそう言って貰えるのは光栄です」
「伝説って・・・なんか、妙に年寄り臭くないか?俺、こう見えてもまだギリギリ20代なんだけど」
「ところで、君に特別報酬をと思っておるんじゃが・・・何が良いかね?」
ムツキは少し考えた後、深井博士に答えた。
「僕は後々、地上調査隊に入隊したいと思っています。可能であれば、抗体を摂取したいのですが・・・可能でしょうか?」
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