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深井博士は少し眉をしかめたが、すぐに笑顔で返答した。 「なるほど・・・君のような逸材が別部隊に行ってしまうのは残念じゃが、要望とあれば用意しよう。しかし、レストランは要人の予約でいっぱいなんじゃ・・・」 そう言って、深井博士タブレットを取り出した予約状況を確認する。 「ざっと、二年待ちかのう」 「肉さえいただければ、自分で料理します」 それを聞いた深井博士は、リチャードの顔を見る。 リチャードは軽く首を横に振った。 それは「知っているのか?」に対する「知らないハズ」というやり取りだった。 深井博士はニヤリと笑い、ムツキに言った。 「住所を教えてくれるかね?届けさせよう。は大変じゃと思うが・・・大丈夫かね?」 「料理には自信がありますから、大丈夫です。ありがとうございます」 リチャードは、その言葉を聞き、驚いた表情で深井博士の顔を見る。 二人と別れ、歩きながらリチャードは深井博士に声をかけた。 「良いんですか、あんな約束をして・・・適当な牛肉でも送るつもりですか?」 「そんなセコい真似はせんよ。ムツキ君は、少しんじゃ。彼の両親とは、クローンの件でちょいと意見が分かれてのう・・・」 その言葉を聞き、リチャードは青ざめた。 「そんな彼らの息子がを食らうのかと思うと・・・実に愉快!」 満面の笑みを浮かべる深井博士から、リチャードは思わず目を背ける。 悪趣味すぎるだろ・・・このジジイ。 一方、本部から出たムツキとエリーは駐車場に向かって歩きながら話をしていた。 「ムツキ、地上捜査隊なんかに入りたかったの?」 「まぁ・・・元々は、そういうつもりじゃ無かったんだけど・・・最近、考えが変わってね」 エリーは不機嫌そうにムツキの言葉を聞いていた。 「へぇ・・・」 「じゃあ」 バイクに乗って、ムツキは走り去る。 その後ろ姿を見ながら、エリーは呟いた。 「人の気も知らないで・・・私も地上捜査隊に入りたいって言ったら、流石に勘づかれるかな?」 数日後の休日・・・小包と共に黒い皮袋に入った荷物が届き、ムツキはグレーのスウェット姿でそれを受け取った。 小包の中には、手紙と注射器が入った透明ケースが入っている。 「なんだ、この注射器は?」 とりあえず、ムツキは手紙を読む事にした。 親愛なる安達 睦月殿へ 約束した抗体が入った肉を贈ります。 貴重なモノなので、呉々も口外しないように宜しくお願い致します。 尚、万が一にも動き出した場合は至急連絡して下さい。 手紙を読んだムツキは荷物を部屋へと運ぶ。 「深井博士、約束守ってくれたんだな・・・それにしても動き出したらって、もしかして生きたままの状態なのか?」 恐る恐る黒い皮袋のファスナーをあけるムツキ・・・中身を見て、目を疑った。 「女の子!?」 混乱し、思わず後ろに後退りしたムツキは壁に背中をぶつけた。 「・・・まさか、これが抗体の入った肉だと言うのか!?」 まず、落ち着こう・・・出来れば、事情に精通していそうな教官にでも相談したいところだが・・・口外しないようにと手紙に書かれていた事を考えると、試されている可能性がある。 いや、もしかして・・・度が過ぎたブラックジョークか何かなのか? ムツキは再び皮袋に近づき、中に入っている少女の顔を覗き込む。 「もしもし?」 返事は無いが、まばたきしたよな・・・死体では無いらしい。 更にファスナーをさげると、乳房が見てたのでムツキは慌ててファスナーを元に戻す。 「全裸なのか!?クソ・・・」 任務の為、人を殺した事はある。 しかし、意識が無いとはいえ少女を解体して食べるなんて・・・あまりにも人道に反する行為じゃないか? 両親が研究内容を話したがらなかったのは、こういう事だったのか・・・そう思いながら、ムツキは途方にくれた。 ふと、手紙と一緒に入っていたケースに入った注射器を見る。 中にメモ紙が入っている事に気づき、メモを取り出す。 血液凝固剤、解体の際に血が飛び散りづらくなります。と書いてある。 ムツキは震える手で注射器を取り、針の先を見つめた。 再びファスナーを開き、少女の細い腕を掴み注射器の針を近づける。 少女の腕から、生きている人肌のぬくもりを感じたムツキは動揺して注射器を落としてしまった。 「・・・あ」 床に落ちた注射器は割れてしまい、中の液体がフローリングに広がっていく。 「・・・無理だ」 うつ向くムツキを少女は見つめ、小さな声で言った。 「・・・注射、しなかったんだね」 「え?」
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