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3-1
幽体離脱したかのような状態となったマナは、自分が水槽の中に保管され、それを元に作られたクローンが運び出されるのを見つめていた。
物言わぬ人形のようなクローンが調理されている様を眺めていた。
時には股を引き裂かれて取り出された卵巣を調理される事もあった。
「なんなの、この映像・・・」
時折、どこからか自分の声が聞こえてくる。
「助けて・・・助けて・・・」
助けを求める自分の声が耳にこびりつき、流れ続ける残酷絵さながらの映像を前に沸々と怒りと憎しみが込み上げる。
「私を食べて、抗体を摂取するなんて・・・世界を救う為に私一人が犠牲になり続ける世界なんて、滅べば良い!」
何十年にもわたり、自分が殺され続けた現実はマナの心に深い深い怒りと憎しみを宿らせた。
そして・・・再び、マナは意識を取り戻す。
それは、他でも無いムツキの部屋に運ばれたマナだった。
「・・・注射、しなかったんだね」
「え?」
声を発したマナをムツキは怯えるような目で見つめる。
「凄い顔・・・怖いの?」
ムツキは自分がしようとしていた事に対する嫌悪と恐怖で普段のポーカーフェイスからは想像できないほど顔を歪めていた。
深呼吸して、ムツキは我に変える。
「・・・動き出したら、連絡する」
その言葉を聞き、マナは泣きそうな顔で哀願する。
「待って・・・そんな事をしたら、私は深井のモルモットにされるわ。お願い、やめて・・・助けて」
巡り続けた記憶の旅でマナは深井という人物がどんな人間か理解していた。
これは千載一遇の好機・・・どんな手を使っても、この男に連絡させる訳にはいかない!
ポロポロと涙を流し、泣き出したマナを見てムツキはスマートフォンから手を離す。
明らかに、動揺している。いまなら、同情を買って手玉にとれるかも知れない。
とは言え、ろくに男性経験が無い自分が魔性の女の如く男の心を掌握するなんて出来るだろうか?
それでも、この好機を逃す訳にはいかない!
そんな気持ちで、マナは再び話し出す。
「少しだけで良い・・・私の話を聞いてくれませんか?」
無言のまま、マナを見つめるムツキにマナは三十年の出来事から順を追って語り始めた。
マナの語りは少しだけと言いながら、小一時間ほど続いた。
マナは自分自身を救出するという目的だけは伏せる事にした。
ムツキがどんな人間か分からない以上、目的を話すのは危険と判断したからだ。
それと、父親に飲まされた隕石の粉の事も伏せた。
それに関しては、知られたら捕らえられている自分自身の価値が揺らぐ可能性があると考えたからである。
その隕石の粉が抗体を作り出していて、それがもしも手に入ったとしたなら・・・自分の本体が処分されてしまうかも知れないと思ったからだ。
話を聞いたムツキは、深くマナに同情した。
「辛い思いをしたんですね・・・この海底都市で生きる同じ人間として、恥ずかしい限りです。ここは、十分に栄えている。なのに、君にそんな酷い仕打ちをしてまで抗体を摂取する必要なんて無いのに・・・僕は決めました」
「な、何をですか?」
「犠牲になった君達を無駄にしない為にも、必ず地上捜査隊に編入し地上で生活できるようにして見せます!」
そんなの、どうでも良いんですけど?
同情を買うのは上手くいったみたいだけど・・・何か、やりづらいわ。真面目すぎるというか、融通がきかなそうなタイプ・・・苦手なのよね、こういう人。
「ありがとうございます。心優しい方なんですね・・・名前を聞いても?」
思っても無い事を言いながら、マナは愛想笑いを浮かべてムツキに名を尋ねる。
「僕は安達 睦月と言います。今は治安組織に所属している19歳です。君の名も、聞かせて貰えますか?」
「伊吹 愛です。愛と書いてマナと読みます」
「素敵な名前ですね。あの・・・良かったら、探してみませんか?」
「はい?」
ムツキからの謎の提案に、マナは思わずすっとんきょうな声をあげて返事をした。
「マナさんのお父さんです。電話がつながらなかっただけで、ご存命なのでは?」
何を言ってるんだ、コイツ・・・パパはあの時、45歳だったから生きていても75歳のおじいちゃんだ。
そもそも、あんな状況で生きている訳が無い!ロマンチストにも程がある・・・バカじゃない?
それに、そんな事をされたら深井にバレるリスクがある。
「聞き込みとかしたら・・・私の存在が深井にバレるリスクがありますよね?」
「そ、そうですね。すいません・・・自分、両親がいないので、もしお父さんが生きてたらマナさんの辛い過去に少しは光が射すんじゃないかって・・・」
うわ・・・それ、気を惹こうとして言ってるんじゃないでしょうね?だとしたら、キモすぎる。
ムツキの純粋な思いやりの心は、マナには届かなかった。
上体を起こしていたマナは、警戒心から思わず胸を隠していた両腕に力を入れた。
それにより、胸の谷間が強調されムツキは思わず目を逸らす。
「ふ、服を・・・持ってきます!」
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