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3-2
「部屋着だとブカブカだろうし、何を着せれば・・・ハーフパンツなら、良いかな?」
リビングから寝室へ移動したムツキはマナに着せる服を探しながら、聞いた内容を自分の中でまとめていた。
マナさんは世界でただ一人、未知のウイルスに感染しない人間だった・・・そして、どういう訳か彼女に宿る抗体を摂取する方法が食べるしか無かった・・・彼女を食用量産する為、禁じられていたクローン技術が用いられ、マナさんの本体はどこかに保管されてしまった。
数十年の年月を経て、マナさんは幽体離脱的な能力に覚醒し・・・意識をクローンに飛ばす事ができるようになった・・・みたいな感じかな?
最初、意識はあるが記憶が曖昧で後に記憶のデータが流れ込んできたのは、一気に膨大なデータを処理するのが困難だったから・・・とか、そんな感じだろうか?
とにかく、今はどうするのが正解か分からないが彼女を深井博士に渡す訳にはいかない。
自分で言うのもナンだが、僕は人付き合いが苦手なので訪ねてくる友人はいない。
だから、彼女を匿うのはそこまで難しくは無いだろう。
そんな事を考えながら、ムツキはリビングに戻りマナに半袖シャツとハーフパンツを手渡した。
「これ、良かったら着て下さい」
「ありがとうございます・・・あの、お風呂を借りて良いですか?」
「あ、どうぞ」
ムツキはバスタオルを用意し、脱衣室に置いた。
「使って下さい」
脱衣室からムツキが出ていった後、鏡に映る自分を見つめる。
今回は髪も爪もある。でも、妙に寒い・・・前に鈴木だか工藤だかが言っていた痛みを緩和する薬の影響だろうか?
蛇口から出るお湯に触れても、温かい感じがしない。
バスタブにお湯を貯め、浸かっているうちにだんだんと身体が温まる感じがしてきた。
「さっきまで、寒いという感覚しか無かったの・・・薬が切れたのかしら?あぁ・・・温かい」
自分は本当の自分では無いとしても、確かに今を生きている。
そう思うと、不思議と涙が溢れた。
ムツキは自分の部屋で女性が風呂に入っているという現実に正直、ビビっていた。
「あぁ、参った・・・これまで、そんなに女性を意識した事なんて無かったのに。マナさんの話を聞いて同情してるのは確かだが、何でこんなに胸がドキドキしてるんだ?」
気を落ち着かせようと、目を閉じて深呼吸をする。
しかし、目を閉じてもマナの儚げな笑顔が浮かびあがっていた。
「これ、もしかして・・・あれか?恋とか、そういう感情か?まだ、どんな人かも詳しく知らないのに、人を好きになるなんて事があるのか!?」
ムツキに恋愛経験は無い。
それは単純にマナの容姿がムツキのタイプなだけなのかも知れないが・・・それさえも理解できないくらい、経験が不足していた。
「まさかとは思うが・・・これが、俗に言う一目惚れなのか?」
ピンポーン
狼狽えている最中、突然インターホンが鳴った。
その瞬間、ムツキの表情が変わる。
嘘だろ?ここ数ヶ月、誰かが訪ねてきた事なんて無かったのに・・・こんな時に限って!?
モニターから玄関の様子を確認すると、そこには・・・カーキ色の薄手ジャケット、中は白いカジュアルシャツ、ベージュのロングスカート姿のエリーがいた。
ちなみに海底都市の気温は春くらいに設定されているので、室内以外で薄着になる人はあまりいない。
とは言え、代謝が良い人は常に薄着だったりもする。
何故、エリーが?
戸惑いながらもムツキはモニターからエリーに問いかける。
「やぁ、エリー・・・どうして、僕のマンションを知ってるんだ?」
「フガヤマから聞いてたからよ。ちょっと、渡したいモノがあってさ」
そういえば、だいぶ前に一度だけ同期の男達で集まってここで鍋パーティーをした事があったな・・・フガヤマ、勝手に人のマンションを教えるのはプライバシーの侵害だぞ?
今は亡きフガヤマの顔を思い出しながら、ムツキは考えを巡らせる。
それにしても、渡したいモノとは!?このタイミングで、突然訪ねてくるなんて偶然とは思えない・・・もしかして、深井博士に様子を伺ってくるようにと言われて来たのでは?
疑心暗鬼になっているムツキを尻目に、エリーはカバンから本を取り出した。
それは、かなり古い本で地球図鑑と書かれている。
「・・・これは、地球の図鑑?」
「地上に興味あるなら、見て損は無いんじゃない?」
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