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3-3
ムツキはエリーを疑っていた自分が恥ずかしくなった。
ドアを開け、ムツキはエリーに姿を見せる。
入口から浴室は死角になっているし、問題無いだろう。エリーは僕が地上捜査隊に入りたいと聞いて、善意でこれを持ってきてくれたのか。
「ありがとう、エリー」
「おぉ、珍しく笑ったじゃない。嬉しいんだ?」
「嬉しいのは、本じゃなくてエリーの友情だよ。僕は自分で勝手に友人はいないなんて思ってたけど、こんなに気遣ってくれる友人がいた事が嬉しいんだ」
ムツキにとって、それは精一杯の感謝の言葉だった。
しかし、エリーにとっては胸が苦しくなる言葉でしかない。
それを悟らせないよう、エリーは無理に笑ってみせた。
「友人・・・ね。まぁ、ムツキみたいなぼっち見てると、放っておけないのよね!私の方がお姉さんだし、面倒見なきゃーってなっちゃう訳よ!」
苦笑いを浮かべながら、ムツキは思案する。
エリーの気持ちは嬉しいが、出来ればここに長居はしてほしく無い。
どうするのがベストだ?
ムツキのとった行動は・・・部屋には居れずにもてなして帰ってもらう作戦!
それが一番、当たり障りが無いと考えて実行に移す。
「お礼がしたい。良かったら、すぐそこのカフェでお茶しないか?美味しいケーキがあるから、ご馳走するよ」
「え?あ・・・うん!そこまで言うなら、ご馳走になってあげても良いわよ!」
「着替えてくるから、ちょっと待ってて」
玄関ドアを閉め、ムツキの姿が見えなくなった瞬間、エリーはガッツポーズをして呟いた。
「波が・・・波が来てる!」
ムツキは脱衣室からマナに声をかける。
「マナさん、少し外へ出ます。すぐ戻りますから心配しないで下さい」
「え?ちょっと・・・待って」
ムツキを引き留めようとバスタブから立ち上がったマナだったが、全裸を見られる羞恥心から追いかけることを躊躇してしまった。
速やかにパーカーとジーンズを着たムツキは玄関を開け、エリーに微笑む。
「おまたせ」
「じゃ、連れて行ってもらおうじゃないの!私、こう見えて舌が肥えてるからね?」
そんな話をしながら、二人はエレベーターに乗りマンションを出ていった。
部屋に取り残されたマナは濡れた身体のまま、窓から外を見る。
そこには、ムツキと並んでポニーテールを揺らしながら歩いているエリーの後ろ姿があった。
「アイツ、女馴れしてなさそうに見えたけど・・・彼女がいたの?優しい言葉も、気遣いも、もしかしたら演技かも知れないわ!」
辛い経験から、マナは人間不信に陥っていた。
「まさか、同情したフリをして深井と変なお面をつけた連中を連れて来るんじゃ・・・嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!怖い、怖い、怖いよ!」
取り乱し、マナは台所で武器になるようなモノがないか探し・・・包丁を手に取り、両手で握ったまま踞ってしまった。
マナが恐怖と不安に押し潰されているとも知らず、ムツキはエリーとお茶をしケーキを食べ、再度お礼を言って「じゃあ、また」と挨拶をしていた。
「今度・・・また、任務で一緒になったら宜しくね!」
本当は「今度は、ディナーでも」的な事を言いたかったエリーだが、恥ずかしさが勝り言い出せずに笑顔で手を振る。
エリーと分かれたムツキは、ホッと胸を撫で下ろして自宅マンションへと向かう。
「本当はマナさんにもケーキ買ってあげたかったけど、怪しまれるかも知れないし・・・またの機会にしよう」
部屋に戻ったムツキは、床が濡れているのを見て驚いた。
「マナさん?」
返事が無いが、気配はある・・・しかも、妙な殺気も感じる。
無意識のうちに警戒態勢に入ったムツキは、床に点々と落ちている水滴が台所に向かっていることに気付く。
「そこにいるんですか、マナさん?」
台所を覗きこもうと近づくムツキに、包丁を持った全裸のマナが飛びかかってきた!
咄嗟に包丁を持つ手を掴み、マナの凶行を止めたムツキは顔を見て驚いた。
さっきまでと違い、酷く怯えた表情でカタカタと歯を鳴らして小刻みに震えている。
「大丈夫ですから、落ち着いて下さい!」
どうにか落ち着かせようと声をかけるも、マナの力は弱まらない。
「一人にしてしまい、すいませんでした。でも、僕はマナさんの味方です。信じて下さい!」
「信じる?何を根拠に!さっき、女と出ていくのを窓から見た!あの女に私の事を話したんでしょ?ここに、またお面の連中が来て私の手足を切って料理するんでしょ?騙されない・・・騙されないんだから!」
恐怖で我を失っていて、聞く耳を持ってもらえない!クソ、どうすれば良いんだ!?
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