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1-2
「俺は腕のスープ作るから、そっちは任せたぞ」
切断した手の爪を次々と剥ぎ、下ごしらえを進める鈴木。
工藤は鈴木が置いた血塗れの電動ノコギリを手にしてマナへと歩み寄る。
「お願い・・・もう、やめて・・・お願いします!」
「哀願されても・・・やめたところで、数時間もすれば血液が固まりきって死ぬんだよ。だから、そんな目で見ないでくれ」
心苦しそうな台詞を言いながらも、工藤はマナの左足に電動ノコギリの刃を向ける。
泣き叫ぶマナの声と、電動ノコギリが肉と骨を刻む音がスマートフォンからリピートされる音楽をかき消す。
鍋に湯を沸かせている鈴木は、スマートフォンにイヤホンをさして聴く事にした。
「おい、それじゃ俺が聴けないだろ・・・協調性ってのが無いのかね?」
そんな風に言われているとも知らず、鈴木は沸騰した鍋にマナの腕を入れた。
右腕に続き、左足を太腿から切断されたマナは歯をガチガチ鳴らしながら震えながら言う。
「もう・・・殺して・・・」
「運ばれる前に処方された痛みを緩和する薬が効いてるのか・・・普通なら、とっくにショック死してるんだろうな。逆に不憫だが、殺してしまうと鮮度が落ちる。鮮度が落ちると、不味くなる・・・だから、ゴメンな」
いっそ殺してというマナの願いを工藤は聞き入れなかった。
鈴木はスープがトロトロになったところで、鶏ガラスープを足し、生姜、ネギ、乾燥ワカメを入れる。
塩コショウで味を整え、いりゴマ加え・・・腕スープの完成である。
イヤホンを外し、鈴木は鍋を持って部屋を出た。
「・・・時間ロスしてるよな。予定より遅い」
工藤はマナの足の調理にかかる。
「股肉のソテー・・・シンプルだからこそ、誤魔化しが効かない」
そう呟きながら、調理を続ける工藤・・・すると、突然ドアが開いた。
鈴木か?そう思いながらドアの方に顔を向ける工藤。
しかし、そこに立っていたのは黒猫の面をつけた黒いコックコートを着た女性二人組だった。
「おい、ここは俺と鈴木が任された調理場・・・」
黒猫の面をつけた女の一人が、おもむろに取り出した拳銃を工藤に向けて躊躇無く発砲する。
工藤の面に銃弾が撃ち込まれ、後頭部から血と脳漿が飛び散った。
マナは、この時・・・もしかしたら助かるのでは?と淡い期待を抱いたが、それもすぐに打ち壊された。
「お前の相方の料理が口に合わなかったそうだ。遅い上に不味い料理を食わせれば、こうなる事くらい想像できなかったのか・・・工藤、鈴木。まぁ、もう聞こえちゃいないか。調理は私達が引き継ぐから、安らかに眠れ」
「あは、あははは・・・そうだよね。助かる訳、無いよね・・・あは、あはははははは・・・手も足も片方無いし、血もゼリーみたいになってるし・・・無理ゲー!!きゃはははははは!」
とうとう、気が触れてしまったマナは笑い出した。
それを見て黒猫の面をつけた女達は狼狽する。
「な、なんだ?喋ったのか?」
「食材は意識が無い、植物人間状態だって・・・中村、そう言ってたわよね!?」
「落ち着け、篠崎!」
中村は狼狽える篠崎を一喝した。
「私も何度か調理をしているが、こんなケースは初めてだ」
笑い続けるマナの声と、鈴木が置いたいったスマートフォンのイヤホンから微かに聴こえる音楽が部屋に響く。
「どうするのよ、中村」
「・・・報告した所で、調理する事には変わりあるまい。予定通り、目玉焼きと頬肉の赤ワイン煮の調理を始める」
目玉をくり貫かれ、頬を削がれ・・・無惨な姿となったマナは、それでもまだ生きている。
血はゼリー状になり、流れてはいかない。
「ああああ・・・あああああ・・・」
奇声を垂れ流し続けるマナに篠崎は顔を向ける。
「見てる場合か、集中しろ。工藤と鈴木のようになりたくなければな」
篠崎は無言で頷き、調理を続けた。
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