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1-3
「素晴らしい料理だったよ。最初は不味くてどうしようかと思ったが・・・君達のおかげで妻と幸せな時間が過ごせた。ありがとう」
「勿体ないお言葉、身に余る光栄です。大統領」
食事を終えた大統領と、その婦人はベンツに乗り込みレストランを後にした。
「人肉というのは、不味くて食えたモノじゃないからな。一応、少しでも肉が美味くなるように餌は果物にしたり工夫をこなしているが・・・結局は料理人次第だ。あいつらから、中村と篠崎に交代させたのは大正解だったな」
中村と篠崎の隣で天狗の面をつけた料理長が去り行くベンツを見ながら言った。
「・・・私達は残りを調理し、冷凍保存して来ます」
「そうだな。それも食べなければ意味が無いからな。手伝うか?」
「いえ、料理長の手を煩わせる訳にはいきません。最後まで、二人でやります」
中村は料理長の助けを断り、厨房へと戻る。
「・・・ぁぁぁぁぁ・・・ぁぁぁぁぁ・・・」
マナは、まだ生きており奇声をあげ続けていた。
「ねぇ、もう殺してあげよう?可哀想だよ」
「ダメだ。自然に死ぬまで、調理は続ける。鮮度は味に関わる」
「どうせ冷凍するんだから、変わらないと思うけど・・・」
そんな会話の最中、突然ドアが開き料理長と共に白衣を着た初老の男と金髪オールバックヘアの黒いスーツにサングラスをかけた男が姿を現した。
「ふ、深井博士」
中村は思わず、その名を呼んだ。
身長は165cm程度だが腰が曲がっている為、それより小さく見える。髪は長く後ろ結いをしているが後退し始めており、おでこが広い。やせ形で丸い銀縁の眼鏡をかけており、目付きは悪く、頬はこけていて見るからに病弱そうな印象を与える男・・・深井博士。
「やぁ、大統領から礼の電話が来てね・・・ワシ直々に労いの言葉でもかけようと思って足を運んだんじゃが・・・これはどういう事かね?」
深井博士は奇声をあげているマナに目配せをする。
「な、何故か声をあげてまして・・・ですが、ただそれだけなので調理に支障は無いかと・・・」
「監視モニター、調理前の映像を」
声をうわずらせる中村を他所に、深井博士は監視モニターの映像をその場の壁に映し出させた。
そこには、鈴木と工藤がマナと会話をしている映像が映っている。
更に早送りすると、中村達を前にし笑い出すマナが映し出された。
「なんと・・・意識があったのか?」
映像を見つめる深井博士がブルブルと身体を小刻みに震えさせる。
料理長は、おもむろに取り出した拳銃で中村と篠崎の頭部を撃ち抜き射殺した。
「申し訳ございません、深井博士。これは、エマージェンシー・・・報告すべき内容でした」
頭を垂れる料理長に、深井博士は声をかける。
「うむ・・・だが、何故有能な料理人を殺してしまったんじゃ?勿体ない」
「代わりはいくらでもいます。弟子の不祥は、この手でと・・・」
深井博士は死体となった中村と篠崎を舐めるように見て溜め息を漏らす。
「はぁ~良い身体しとるのに・・・どうせなら、即死しない所を狙わんか。死にかけが、一番締まるんじゃぞ?」
料理長は頭を垂れたまま、深井博士の言葉に不快感をあらわに眉をしかめた。
それを気取られぬように顔をあげ「はい、次回からは」と話を合わせる。
「全く・・・これを調べたいが大統領に続きを食わせねばならん・・・仕方ない、代わりの料理人とならを呼べ」
料理長はすぐさま弟子に連絡をする。
その間、深井博士はマナを眺めていたが・・・とうとう事切れた。
「調理の前なら、どうとでもなったモノを・・・あぁ!調べたかった、調べたかった、調べたかったぁ!!」
そう言いながら、背を向けて電話をしている料理長の後頭部に向けて深井博士は取り出した銃を向ける。
それから間も無く、料理長から連絡を受けた料理人が調理場へと訪れ・・・驚愕した。
「り、料理長!?」
うつ伏せに倒れ、頭から血を流して死んでいる料理長を見下ろしながら深井博士は言う。
「監督不行き届きで、死刑を執行したんじゃよ。代わりはいくらでもおると聞いとるが・・・次の料理長は?」
「わ、私が副料理長なので・・・私が引き継ぎます」
「うむ、では宜しく・・・それから、食材に異変があった場合は即、報告じゃ!わかったな?」
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