2-1

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「で、あるからして・・・」 説明をしている教師の話がいまいち頭に入ってこない。 お腹減ったな・・・なんて思いながら、授業が終わるのを心待ちにしていた。 「う・・・うぅぅぅ・・・」 マナは隣の席に座る男子の苦しそうな呻き声を聞き、声をかけた。 「どうしたのマツダ君、お腹痛いの?」 マツダの顔を覗き込むと、皮膚が沸騰してぐつぐつ煮えたぎるシチューのようにボコボコと膨らんだり縮んだりしている。 「え?」 「うぼぁー!?」 次の瞬間、マツダの全身から血が吹き出し周囲は血の海と化した。 血を浴びたマナは、ガクガクと震えながら声を絞り出す。 「せ、先生ぇ~マツダ君が・・・マツダ君が・・・」 突然の出来事に生徒達は悲鳴をあげたり、教室から一目散に逃げ出したり、何も出来ずに座ったまま震えていたりと、十人十色の混乱を見せる。 だが、間も無く先生も他の生徒もマツダと同じように全身から血を噴き出して死んでいった。 ただ一人、マナを除いて。 「待って・・・何が起きてるの?か、帰らなきゃ・・・そうだ、家に帰ろう。パパとママのところに帰らなきゃ」 ピクリともしない級友達から目を逸らし、マナは教室から出る。 四方八方から聞こえてくる絶叫に耳を押さえて聞こえないようにして走り出す。 廊下も血塗れ、死体だらけ・・・通学路も人やカラス、犬、猫が血を噴き出して倒れている。 「夢だよね・・・こんな怖い夢、初めてだ。もしかして、起きたらおしっこ漏らしてるかも・・・」 現実として、到底受け入れられない阿鼻叫喚の地獄絵図となった町を走り、マナは家のドアを開けた。 「ママ、ママー!」 いつもなら「どうしたの、マナ?」と優しい声で答えてくれる母の声が聞こえない。 台所から「ピー!」とヤカンからお湯が沸いた事を知らせる音が聞こえる。 恐る恐る、台所に足を踏み入れるマナ・・・そこには、優しくて大好きだった母が皆と同じように全身から血を噴き出して倒れている姿があった。 「・・・ママ」 声をかけても、肩を揺すっても、母親は何の反応も示さない。 マナは跪いたまま、暫く動けずにいた。 「・・・パパ、パパ!」 スマートフォトを取り出し、愛する父親に電話をかける。 しかし、繋がる事はなかった。 涙を流しながら、マナは無事な人がいるハズだと自分に言い聞かせながら町を徘徊する。 何時間経っただろう・・・とうとう、マナの前に人間が現れた。 宇宙飛行士のようなヘルメットと服で完全防備した男が、マナを見て思わず声をあげる。 「奇跡か?本部、大至急応答願う!防護服無しで徘徊している少女を発見!」 マナは男性に保護され、大型トレーラーの中へと案内された。 そこには、最初に会った男性と同じヘルメットと防護服を着た初老の男性がいた。 「君は未知のウイルスの抗体を宿しているに違いない。君は世界を救える存在だ・・・聖女と呼ぶに相応しい」 歩き、泣きつかれたマナは、ようやく人と出会えた安心感から、そのまま眠りに落ちた。 それから、生き残った科学者達によりマナの抗体を調べる研究が始まった。 「・・・東城(とうじょう)博士、彼女の細胞を食べさせたラットが発病しません!」 「どういう訳か・・・様々な実験を試みたのに、抗体を得る方法がなんて・・・クローン研究の第一人者、深井博士は御存命だったな?」 「あの若造ですか?クローンの研究は世界的に禁止されているのに、秘密裏に研究を進めていた・・・」 「確かにクローン人間の研究は、人間の尊厳に関わる禁止されて当然の研究だ。しかし、彼女は一人しかいないのだ・・・他に手はあるまい」 それから30年の月日が流れた。 かつて世界の人口は79億5400人だった。 しかし、今は・・・約1400万人となっていた。 地上から追いやられた人類は、ウイルスの影響を受けない海底都市で生活する事を余儀無くされた。 世界的人工増加問題、移民問題のアンサーとしてパンデミック以前から開発が進められていた海底都市アトランティス・・・面積は約2200平方キロメートル、マナが住んでいた国の首都と同じくらいで、上から見ると楕円形ドーム状の形をしており海中の植物プランクトン、海藻、人口太陽によって酸素が供給されており、海底から噴出する熱水エネルギーにより発電を可能とし、朝、昼、晩と都市の明るさが変化する。 人口太陽は19時になると使用したエネルギーを充填する為に沈み、代わりに明るさを抑えた人口月が現れ、できるだけ地上に近い環境となっている。 そこは、人類が地上に戻るまでの楽園となるハズだった。 深井が聖女(マナ)を独占するまでは・・・
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