全ては演技の上で

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 映画のあとは、散歩をする。お腹を空かせないと美味しいご飯は食べられない。  私達の家のベランダは小さなガーデンのようになっていて色とりどりの花が咲いている。花の香りを楽しんだり、鳥のさえずりに耳を癒やされたり、時には歌ったり踊ったり。二人掛けのベンチに寄り添って外の景色を眺めたりする。  薄手のコートを羽織り、車椅子に乗りながら一つひとつ花の成長を確認していく。途中で「あっ、この花」と和咲は身を乗り出した。 「カーネーションですわ。今年も綺麗に白とピンクの花を咲かせてくれました」  カーネーションの花は、確か毎年家に飾るのが習慣。私はしゃがみ込むと、カーネーションの花の香を嗅いでこう言った。 「優しく摘んで、お部屋に飾ろうか?」  少しばかり首を傾げると、和咲は静かに首を横に振った。いつもと違うイレギュラーだ。まあ、人間だからそういう気分のときもあるのだろう。 「私と同じ運命を辿らせるのも申し訳ない。来年はもう見れないかもしれませんから、このまま綺麗に咲いていてほしいですわ」  絨毯のように咲くカーネーションを見つめる横顔は、ほんの少しだけ寂しそうに見えた。
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