全ては演技の上で

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 さて、夕食の時間がやってきた。今回のプリンセスの注文は、なんとご飯に味噌汁に玉子焼き。朝食みたいなメニューだった。それに、洋食の多い和咲が和食を頼むのは珍しいこと。  心して調理に取り掛かる。恋人の記憶の中にはご飯と味噌汁と玉子焼きのメニューはない。これまでの演技の経験を活かし、恋人らしく作るしかない。  ご飯は、炊飯器はあるが鍋炊きで、味噌汁は昆布とかつおのだし汁から、玉子焼きは割った卵を何度か()してふわふわな感じに。  料理中、和咲はじっと私のことを見ていた。きっと真心を込めて丁寧に作るのがポイントで、一挙手一投足を観察しているのだろう。  鍋からいい匂いが立ち込めてきた。和咲も目を閉じて匂いを楽しんでいるようだった。頃合いを見て、ご飯の柔らかさを確かめ、みそ汁の味を確認する。最後に熱々のフライパンに卵液を入れて、ぎっしりと詰まった玉子焼きの完成。  器に持って並べると、和咲は優しい笑顔で「いただきます」と言って美味しそうに食べ始めた。  私も口に運んだが、これが意外と上手い。長年の経験が蓄積されて、ついにアドリブでと上手く振る舞えるようになったということか、と一人で喜びに浸った。  そんな私の内心を知らずして、彼女も嬉しそうに微笑んだ。 「初めての味ですわ」と。
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