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「カァー」
烏が畑の近くへと飛んできた。この辺りは古くから農家として生きている。
山の中腹にあるため都心部と違って生活に便利なものはあまりない。コンビニもなく道幅が狭いので大型のトラックも入れない。各家が軽トラックを持ち寄り添い協力しながら生きていた。
そんな広い土地で人々の暮らしを見つめてきたものがあった。それは古い案山子だ。昔ながらの作り方で竹を十字に縛り頭をつけて着物を着せて。とても人間には見えない、顔はへのへのもへじだ。
役に立っているのかいないのかと言われれば全く役に立っていない。烏は逃げることなく畑に降り立つ。
この案山子の持ち主はとある家の老人だった。まだ元気だった頃は冬に半纏を着せたり、梅雨の時期は頭に編み笠をかぶせたりしていたが。足腰が弱くなり畑作業もできなくなると、畑も案山子もそのまま放置されることとなった。
畑はただの荒地となり、役目を果たさない案山子が一つ。
バサバサとゆっくりと羽ばたきながら烏は案山子の腕の部分にとまる。
「また来てやったぜ、役に立たない案山子野郎」
「おはよう、烏。毎日毎日ご苦労様」
この烏と案山子の付き合いは長い。畑の持ち主が畑作業していた頃からこの烏が来ていた。
烏はとても頭が良い。わざわざ危険を犯して畑に侵入して食べなくても、熟しすぎて地面に落ちた果物を食べる。むしろそちらの方が美味いと知っている。
そういったものを狙ってネズミなどの小動物も寄ってくるので、時には野生の本能をむき出しにして狩りをする。はっきり言って案山子が効果を発揮した事は一度もない。
「もう何年だ、畑に誰も来なくなって。草ボーボーじゃねえかこの畑」
「この話、四日前と六日前にもしたじゃん」
「しょうがねぇだろ。話のネタ何もねえんだから」
鳥や猪よけなど動物よけの道具は今とても進歩している。まだ畑を続けている他の農家はそういったものを取り入れている。烏などの鳥対策は鷹の鳴き声を定期的にスピーカーから流したり、イノシシ対策は電気柵を設置したり。
田舎と言ってもそういう取り組みには補助金が出るのでどんどん対策が進んでいる。手作りの案山子で烏を追い払おうとしている農家はどこにもなかった。
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