ヘンゼル

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ヘンゼル

(どうしよう……) アパートを見上げて私は半泣きになった。 描いた絵が学校で表彰され、 友達に忘れ物をしたと嘘までついて、わざわざ一人で帰っている途中。 自分だけでこの気持ちに思いきり浸りたかったからだ。 「食べられないお菓子の家」まで来た時、無性に絵が見たくなってランドセルを開けた。 とたん、大切な絵が、よりにもよって「かりんとう」の踊り場に飛んでいってしまった。 「どうしたの?」 階段の左側だったと思う。 扉を開けて、一人のお兄さんが出てきた。 「絵が‥‥‥」 私は恥ずかしくて不安で、その人と目を合わせられず、しゃくり上げながら踊り場を指差した。 「ああ、あれか。ちょっと待ってて」 「あぶないよぉ」 今にも折れてしまいそうなかりんとうの階段を、お兄さんは軽々と上っていく。 「大丈夫だよ」 お兄さんははためく画用紙が破れないよう、そっと絵を外してくれた。 「‥‥‥ありがとう」 お兄さんが微笑み、私の手にしっかりと絵を持たせる。 また風が吹いてきて、その絵、すぐにしまった方がいいよと言われた。 私は急いで絵をしまい、 「ありがとう」 ともう一度言った。
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