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「久しぶ……うわ、山登さん、何すか、その顔」
元バンドのドラムスが別バンドで出るライブに行ったら、元ボーカルの伊達男の顔が、凄いことになっていた。
「これでも随分マシになったんだから」
元ギターの絆さんが山登さんを見ながら、とにかく美形のその顔を少し歪め、肩をすくめる。
「……へえ……」
その爽やかな顔には、マシになったというには派手に青緑や茶色のアザが広い範囲に散っていて、怪我の理由を聞こうとしたら、向こうから先に答えをくれた。
「トマ、格闘技してる男の嫁には手出すなよ、こうなるから」
しかつめらしく口にする山登さんの肩に腕を回した元ベースのカズさんが、普段やる気のない眠そうな目を、
「はあ? おま、人妻はだめだろ」
なんてワザとらしくビックリしたように見開いて笑ってる。
ほんとにこの人らは節操なくて、性病に罹ってないのが不思議なくらいのご乱行にはそれこそ目を見張るもんがあったから、人妻に手を出して返り討ちにあったところで、まあなんも不思議はない。
「つかトマ、お前んとこのバンド、やっとボーカル決まったらしいな」
山登さんに話を振られ、糸目野郎を思い出したら、自然と眉が寄った。
「全然駄目。見ててイライラする」
そんな俺を見て、絆さんが笑いながら俺の肩を叩いた。
「悪いとこばっか探すからイライラすんの。いいとこ探してやれよ。あるだろ? 言ってみ」
糸目のいいとこ?
「歌詞間違えない」
それは間違いない。山登さんは酷すぎた。
「それは才能だな」
絆さんとカズさんが爆笑するのに、山登さんが「へえへえ、俺にはその才能がございませんよ」と浅く数回頷いた。
そうなんだよ。確かに山登さんは適当だし、わざとかってくらい間違えるけど、でも、それを補って余りあるスター性ってのがあった。
かたや糸目は、ちゃんと歌詞は覚えてるし、まあ真面目じゃああるんだろうよ。
「けど──面白味がない」
「あはは。間違っても、歌詞忘れても、演出のふりするようなボーカルだったからなぁ、前は」
絆さんが俺にぶら下がるようにして肩を組み、せっかく整えた髪をぐしゃぐしゃにかき回してくるのはちょっと迷惑だけど。あー、ほんとやっぱりこのメンバーで演りてえよなあ。
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