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【 下着と彼女 】
「学校でいじめられたの。この顔のことで」
「いじめ? 酷いことをするもんだね。それでさっき、海の中へ?」
「うん……」
彼女がそんなことで死ぬことなんてない。
そんなちっぽけなことで……。
「ところで、あなたはなぜここへ来たの?」
「あっ! い、いや、ちょっと海を見に来たら、泳ぎたくなっちゃって……」
「服のまま?」
「ああ~、まあ、そんなとこ……」
僕は照れ笑いをしながら、頭の後ろを無造作にポリポリと掻いた。
「と、ところで、君、名前は何て言うの?」
「私は、田所 結菜」
その名前に僕の心臓が少し大きめに跳ねた。
「えっ? 田所 結菜ちゃん……?」
「はい、そうですが、私の名前変ですか?」
「い、いや、僕の母の旧姓と同じだったから……。僕は、遠藤 健司。よろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
少し不思議そうな顔をしながらも、彼女は僕にゆっくりと頭を下げた。
僕は彼女と同じように、今日死のうとしていた。
それなのに、僕は彼女を助けた。
隣にいる母の若い頃にとてもよく似たかわいらしいそばかす顔の結菜ちゃんに、すっかり心を奪われてしまったんだ。
この遠く深い青空と地平線が見えるキラキラと光輝く、とても美しい夏の海辺で。
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