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【 母と女性 】
「何をするの! 健司!」
「ご、ごめんよ。母さん……」
「こんなことして、自分のしていることが分かってるの!」
僕は耐えきれず、押し入れの中へと逃げ込んだ。
そこは小さい頃、いつも母に叱られた時に隠れていた僕が唯一、この狭いアパートで一人になれる空間。
押し入れの外では、母がまだ僕のことを叱っている。
どうしようもなかったんだ。
「健司! 出てきなさい! あなたのしたことは」
「好きなんだ!!」
僕は思わず叫んだ。
「えっ……?」
「母さんのことが、小さい頃からずっと好きだったんだ!!」
感情を抑えることができなくなっていた。頭を抱え、暗い押し入れの中で泣きながら母にそう答えた。
父は2年前、母と口論の末、このアパートを出て行ったきり帰っては来なかった。
父の浮気が原因。おそらく、その愛人の元に行ってしまったのだろう。
だから、僕が母を支えなくてはという思いになった。パートに出る母の代わりに夕食を作ったり、洗濯や掃除も疲れた母を気遣い頑張ったつもりだ。
でも、いつしかそれは、母への、いや一人の女性に対しての愛情へと変わっていった。
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