【 昔の記憶 】

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【 昔の記憶 】

 母の唇を奪ったのは、1度じゃない。  今日で3度目。  いつも仕事で疲れ切って寝てしまう母の姿が、愛おしくてしょうがなかった。  胸が大きくとても魅力的な女性。昔一緒にお風呂に入った時のしなやかな体のラインの記憶が蘇る。  抱きしめられた時のあのマシュマロのような柔らかさ。  目を閉じたかわいらしいそばかす顔が、放っておけなかった。  昔味わった母の唇の記憶。もう一度、どうしても確認したくなったんだ。  母の匂いが好き。顔を近づけると、どこか甘い香りに脳内の細胞が昔の記憶を呼び起こす。  プルンとした薄いリップを塗ったオレンジ色をした厚めの唇が、僕の心臓を激しく躍らせる。  少しポカンと口を開けた寝顔が、とても素敵でかわいらしい。  1度目は、軽いフレンチ・キスだった。  でも、2度目、3度目となると、それはより深く、そして長くなっていった……。  それともう一つ母に謝らないといけないことがある。  以前、ベランダに干していた母の下着が盗まれた時、「最近、下着泥棒が増えているらしいよ」と言ったが、あれは嘘で、犯人は実は僕なんだ。  その母の下着は、勉強机の一番上の鍵のかかる引き出しの中に隠してある。 「僕は、最低だ! 生きている価値なんてない人間なんだ!!」  思わず、押し入れの中からそう泣き叫んだ。  その言葉に、それから母は何も言わなくなった。  かなり心が傷付いてしまったんだと思う。この2年間、ずっとふたりきりだから……。  その夜、僕は自分のしてしまったことで、押し入れから一歩も外へは出ることができなかった――。
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