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【 ひとりぼっち 】
――次の日の早朝、こっそりとテーブルの上に置手紙と盗んだ下着を置いて、母が寝ている間にアパートを出た。
今日、死ぬつもりで……。
でも、どこで死ねばいいんだろう。行く当てなんてない。
とりあえず、最寄りの駅からなけなしのお小遣いを使って、来た電車にそのまま飛び乗った。
手に持っているのは、僅かなお金のみ。
でも、このお金ももう僕には必要はない。
今から、死ぬのだから……。
車窓から見える景色が、次々と変わってゆく。
灰色一色の都会から、段々と家も疎らになり、田んぼや畑が目立つようになる。
しばらくぼんやりと外の風景を眺めていると、やがて潮の香りがしてきた。
空に見える雲も都会と違う。電車の窓を少し開けると、朝の光がとても眩しくて、僕の短い髪をふわふわと揺らしながら通り抜けるやさしい風も、何だか爽快だ。
海が見えてくると、キラキラと朝日が輝き、船の汽笛が遠くから低く響いてくる。
昔、家族で行ったことのある海が見える。
電車の終点。そこで降りると、小さい頃の記憶が少しずつ蘇ってきた。
駅のホームから松林を通り抜けると、やがて白い砂浜が見えてくる。
白砂を踏みしめたスニーカーがキュッキュッと音を立てた。
そして、目の前に開けた壮大な青い空と海の風景に、何だか心が一瞬弾んだ。
今から死のうとしているのに、不思議な気分だ。
眩しいオフホワイトの太陽を左手で顔の前にやり、少しばかりの影を作りながら、知らない間に口が自然と開いた。
「すごいな。大自然って……」
夏の海はやっぱり最高だ。
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