【 面影 】

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【 面影 】

 振り向いたその少女の顔を見て、僕は驚いた。  短めの栗色の髪をした、少し寄り目のそばかす顔。  僕はハッとしながらも、彼女に言う。 「とにかく、一度、岸まで上がろう!」  その時、突然大きな波がザブンと僕たちを飲み込んだ。 「うわっ!」  強い引き潮の勢いで、ブクブクとあっという間に深い海の中へと引きずり込まれる。  さっきまで掴んでいた彼女の腕を離してしまい、海中で彼女を必死に探した。  すると、伸ばした右手が、(わず)かに少女の手に触れる。僕は死に物狂いでその手を掴み、泳いで彼女を引っ張った。 「ぷはっ!」  僕は彼女の体を抱き寄せると、力の限り泳いだ。  とても不思議なんだ。さっきまで自分が死のうとしていたのに。  今は、彼女を必死に助けようと泳いでいる。  足のつくところまで行くと、彼女の両肩を掴んで言った。 「どうして、こんなことを!」 「ううぅ……、うわぁーっ!」  その少女は泣きながら、僕に強く抱き着いた。  ビショビショに濡れた服のまま、両手が背中を包み込む。  その時感じた彼女の感触と香りが、どこか母と重なった。
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