27人が本棚に入れています
本棚に追加
【 面影 】
振り向いたその少女の顔を見て、僕は驚いた。
短めの栗色の髪をした、少し寄り目のそばかす顔。
僕はハッとしながらも、彼女に言う。
「とにかく、一度、岸まで上がろう!」
その時、突然大きな波がザブンと僕たちを飲み込んだ。
「うわっ!」
強い引き潮の勢いで、ブクブクとあっという間に深い海の中へと引きずり込まれる。
さっきまで掴んでいた彼女の腕を離してしまい、海中で彼女を必死に探した。
すると、伸ばした右手が、僅かに少女の手に触れる。僕は死に物狂いでその手を掴み、泳いで彼女を引っ張った。
「ぷはっ!」
僕は彼女の体を抱き寄せると、力の限り泳いだ。
とても不思議なんだ。さっきまで自分が死のうとしていたのに。
今は、彼女を必死に助けようと泳いでいる。
足のつくところまで行くと、彼女の両肩を掴んで言った。
「どうして、こんなことを!」
「ううぅ……、うわぁーっ!」
その少女は泣きながら、僕に強く抱き着いた。
ビショビショに濡れた服のまま、両手が背中を包み込む。
その時感じた彼女の感触と香りが、どこか母と重なった。
最初のコメントを投稿しよう!