祠の主とアマイモノ

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添え物の御神酒を飲み、暖かな日差しを浴びて目を細め、ウトウトと心地の良いうたた寝をしていたときだった。 「まってぇーー!!」 ガサガサと茂みが揺れて、一匹の狸と人間の子供が飛び出した。狸は僕の足元に寄り、子供から壁を作るように隠れてしまった。 人間の子供には、およそ狸が祠へ隠れたように見えているだろう。 やれやれ、今日はお客が多いなぁ。 ちらりと狸に視線をやると、その後ろ脚にはかすり傷が出来ていた。 もしや、この子供に虐められたのではないか。 ざわつく胸を落ち着かせながら、泥や葉で汚れた子供に目をやった。 日を浴びて銀に揺れる柔らかな髪とヤマモモみたいに真っ赤な頬、そして小さなその手には緑の葉が握られていた。 「ひぃいいい、たぬき鍋にされちまう!!」 年老いた狸は僕の足元で身を縮めていた。 「うわぁぁあああん、たぬきさん、このままじゃ死んじゃうよぉ⋯⋯っ、うぅ」 泥だらけの小さな子供は僕の前でわんわんと泣き始めてしまった。 せっかく気持ちよく眠っていたのに、これではうるさくて眠れない。全く、子供は苦手だよ。 「やかましいなぁ、この程度で死なないよ」 一人言のはずだったのに、子供の泣き声がピタリと止まった。 目をまん丸にして、真っ赤な目元と垂れた鼻水をそのままにパァっと口が大きく開いた。 「誰か居るの?? たぬきさん、死なないの??」 子供は周りをキョロキョロ見渡して、不思議そうに首を傾げた。 僕はびっくりして、編笠を深く被って固まった。バクバクと心臓が跳ね上がり、どうしたものかと戸惑った。 すると、足元からか細い声が聞こえた。 「カヤナリ殿、カヤナリ殿、御無礼をお許しくだせぇ。あぁ、どうか儂の願いを聞いてくだせぇ」 足元の狸が僕を見上げて手を合わせていた。どうやら僕の存在を知っている奴らしい。 「この小娘が儂を捕まえようとするのです、恐ろしや、恐ろしや。きっと狸鍋にされてしまう。どうか助けてくだせぇ」 僕の足元にギュッとしがみつき、短い尻尾をプルプルと震わせていた。 そんな狸の声が聞こえる筈もない子供は、姿も見えぬ僕に話し掛けた。 「怪我してるたぬきさんに、このお薬をあげたいの!!」 子供の手元をよく見ると、ヨモギの葉ばかりがギュッと強く握り締められていた。 この子供はヨモギの葉が塗り薬になることを知っていたのだろう、そしてこの狸に手当をしたいようだ。
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