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あの日から数日後。
週に一度のユウコが訪れる日になった。
退屈しのぎに、また奴の話を聞いてやるか。
赤い鼻緒の下駄を履き、風の音に耳をすませ、北の山道に視線を向ける。
すると、ザッ、ザッといつもの足音に加えて、ダッダッダと忙しない音が聞こえてきた。
「カヤナリ様、ありがとう!!!!」
忙しない音の主は祠に着くなり、大きな声でそう叫んだ。
僕はもう、それはそれは驚いた。
「こら、急に大きな声を出したらカヤナリ様がびっくりするでしょう」
変わり者のユウコの隣には、あの阿呆な子供が立っていた。
「えへへ、ごめんなさい」
確か、アヤコという名のその子供。
今日はあの日のような泥や傷は付いていないようだった。
「カヤナリ様、娘の綾子の面倒を見て頂いたようでありがとうございました」
なるほど、お前達は親子だったのか。確かに笑った顔がよく似ているな。
昔よく似た小娘を見たことがあると思ったが、なるほど幼き頃のユウコだったのか。
あぁ、時が経つのは早いものだ。
「よかったら召し上がって下さい」
ユウコは風呂敷から紙の包みを取り出すと、その中の一つを僕にお供えした。
「あやこも食べたいっ!!」
「えぇ、カヤナリ様の後で食べようね」
御神酒の隣には、潰れたヨモギではなく、緑色で艶やかな石のようなものが置かれた。
「私と綾子で作りました、よもぎ餅です。甘いものが苦手で無ければよいのですが」
そう言いながら、ユウコはアヤコによもぎ餅を一つ渡した。
「いただきまーす!!」
アヤコは口いっぱいにそれを頬張りながら、幸せそうに笑っていた。
これが噂で聞いた「アマイモノ」という奴か。
そうか、「甘いもの」とは食い物のことだったのか。
どんな強い力を持ったものかと思ったが、そうだったのか。
僕は食い物と張り合っていたのだな。僕もなかなかに阿呆な奴だったということか。
あぁだけど、噂は本当だったようだ。
これは、なかなかに強敵だな。
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