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離れる
桃也と私はそれから互いをさけるようになった。
奏多兄ともあれから会っていない。
好きな人にあんな姿をみられて咲茉は深く落ち込み、男性恐怖症になっていた。
母から奏多兄が、ドイツへの留学を迷っていたけど、結局留学する事が決まったと聞いた。
あんな姿をみられた事もあり、奏多兄へ別れの挨拶もする事もできなかった。
ーー桃也とは未遂だったが、汚れた女だと思われているに違いない……。真面目な奏多兄は私の事を軽蔑しているだろう。
自分の初恋は呆気なく終わってしまった。
長くあたためたこの恋心は今はもうとても苦しい。
自分の奥底に無理やり押さえつけるしかなかった。
咲茉はこのまま奏多兄と離れた。
それから何年もたち、奏多兄は海外でも活躍するピアニストになっていた。
咲茉は奏多兄のCDが発売されると毎日聴いた。
奏多兄のピアノは昔と同じように正確で精錬されていた。そこに優しさがプラスされたそんな音だった。
CDを聴くと咲茉は小さい頃のように奏多兄に包まれている気持ちになる。咲茉のよりどころになっていた。
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