0人が本棚に入れています
本棚に追加
「ふっ……!ふっ……!」
真剣に素振りをする少年。
「ふっ……!……あっ」
ふと、城を見上げ、手が止まった。今までの集中力はどこへやら。完全に、その人へ意識が行ってしまっていた。
城のある一室。広場を見渡せるよう、その近くを自室にして、自分たちを守ってくれる兵士をいつでも見れるよう、気を使ってくれる優しい人物。
そこには、この城の姫がいた。部屋から顔を覗かせ、広場を見下ろしている。
可愛らしい顔立ちは年齢を感じさせず、一見すると少女のような可憐さだ。常に柔らかな笑みを絶やさず、誰に対しても優しさを与える。しかし、身に纏う風格は確かなもので、屈強な兵士でさえ彼女の前だと頭を垂れ、敬う。柔和でありながら威厳を持つ、不思議な魅力の女性だ。
少年は、姫に憧れていた。本当の優しさを知っているからだ。
ある日のこと。日課の鍛錬を終え、両親の命日にお墓参りに行った。そこで、姫が一つ一つのお墓に祈りを捧げている姿を見かけた。護衛を付けずたった一人でお墓参りをするその姿は、自身の身分など関係なく、対等にこの国に命を懸けた者の弔いをする心遣いを感じさせた。少年も、そして国の皆も、そんな姫を心から慕っていた。
まるで、子どもの頃に見た絵本に出てくる姫そのものだった。
少年が特別な感情を抱くのも、当然のことだろう。
「おい見過ぎだぞ」
不意にわき腹を小突かれ、少年はハッとした。
いくら姫が優しいからと、身分違いでありながらずっと見るのは失礼に値する。
慌てて少年は頭を下げた。
「ふふっ」
その様子がおかしかったのか、姫は口元を隠しながら目を細め、自室に戻っていった。
「はぁ……」
何とも言えない、可憐で上品な振る舞い。
正に理想像通りだと、姫がいなくなっても少年は夢見心地で見上げていた。
最初のコメントを投稿しよう!