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少年には夢がある。
子どもの頃見た、絵本の登場人物のような恋をすることだ。
勇敢な兵士の活躍に、姫がこっそり恋心を抱き、最後に身分違いの恋をする最後はこっそり駆け落ちし、誰も知らない土地で平穏に暮らす。そんな内容だ。
姫は、正に絵本から出てきたような理想的な人だった。
少しでも認知されたい。そして、あわよくば……それが、少年が兵士に志願した理由の一つだ。
勿論、そんなことを思っているなんて、他の人には口が裂けても言えない。両親にも伝えたことは無い。
冷静に考えると、一兵士に過ぎないその辺の雑草のような存在の自分の、空想など実現しないことは理解している。それくらいの常識は持ち合わせている。
それでも、妄想するだけならと頭の中で毎回本のような駆け落ちを描き、その先を行き、こっそり一人で悶えて楽しむのが日課になっている。
「おい新人!いくら姫が好きだからって惚け過ぎだぞ!!まじめに訓練しろ!!」
強めに肩を叩かれてハッと気づいた。
目の前に、こちらを怒ったように睨み付ける先輩兵士の顔があった。
流石に妄想の世界に入り浸りすぎたようだ。
「は、はい!!」
少年は慌てて敬礼し、浮ついた気持ちを吹き飛ばす勢いで素振りを再開した。
「まったく」
その様子を見て呆れ、笑う周囲。
いつも通りの、のどかな日常だ。
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