関西白星 一昼夜物語

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 付き合い初めて3年、半同棲状態になってからは2年と11カ月。もう無理かも、と何度思ったかしれへんけど、その度に彬光にウヤムヤにされてここまできた。主に体でっていうか……謝らへん代わりに抱き込んで黙らせるっていうか。俺がちっこい方ってのもあるけど、足場鳶(あしばとび)をやってる彬光は体もゴツいし馬鹿力やし、抱き締められたらそれこそ抵抗する気ぃが起きひんくらい身動きとれへん。そんで、そこからのキス。で、セックスや。  これは絶対言い訳ちゃうけど、彬光のセックスはマジすごい。普段気遣いゼロのくせに俺が燃える体位とか感じやすいトコとか細かく記憶してて、喧嘩の後はそーゆートコ集中的に責めてくんねん。そんなん……無理やん。もう感じまくって、出さされまくって、なんか終わったらまぁええか、っちゅう流れになって……  でも今日こそはちゃんと謝るまで絶対許さへん!断固として!  なんてなぁ……そう言いつつ、カッカしとんのが冷めて来ると、もう自分の中で諦めムードがある。負けグセっちゅうか……このままいけば多分彬光が後ろのガラス戸を開けてそろそろ入れって俺を部屋に引っ張り込んで、そのままベッドに連れてく。もちろん俺だって男やから本気の本気で暴れりゃ無理矢理抱かれる、なんてことにはならへんけど、一日働いて帰って来た体力も喧嘩で消耗したメンタルも両方レッドアラートで、そのまま悲しい気分で、虚しい気分で、容赦なく襲い掛かる快感に全部うやむやにされるんやってことが、ありありと予想できた。  そういうことじゃないねんて、彬光。気持ち良くしてやりゃ収まるやろって考えてるふうに感じんねん。こっちがゆうてること真剣に聞いてくれへん、相手にしてくれへんって、相当ダメージやで。ダチなら流せるけど、ずっと一緒におったらそういうわけにもいかへんやんか。    ああ……ほんま、このまんまでええんかなぁ……このまま彬光と付き合い続けて、ずっとこんなことを繰り返して……  鼻をすすって涙をもう一度指で拭い、ぼうっと夜空を見上げる。月がない空に一番星、と言った傍から二番星、三番星……うっすらと、星座らしき配列も思い当たらない星々が、街灯に押されるように控えめに光ってる。    ふと、その中にひとつ、ひと際明るい星があるのに気付いた。いわゆる一等星っちゅうやつ?強く、明るく、目を刺すように白い。あれはなんちゅう名前の星やろ。一等星なんてシリウスくらいしか思い出せへんけど。そうぼんやり考えてその星を見てた。  すると、その星がゆっくりと円を描いた。   「ん?」    そんな訳ないと凝視しても、白い星はゆっくり、ぐーるぐーる回ってる。 「え、流れ星……ちゃうやんな。流れてへんし。人工衛星?」  泣いてたことも忘れてベランダから身を乗り出したら、後ろでガラス戸がスライドして、まさにさっき予想した通りの 「そろそろ中に入れ」 という彬光の不機嫌そうな声がした。  それに答えへんかったんは、まだ喧嘩を継続してますってアピールとちゃう。ただ見てた白い星が突然ぴたっと止まってまるで突然目の前に来たみたいにカァッと俺の視界を真っ白にしたから──
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