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関西白星 一昼夜物語
彼氏と喧嘩した。それが別れ話に発展した。
「もう無理や!別れる!」
「……」
「なんとか言えや!黙ったままやったら出てくで!脅しやないで!マジやからな!」
カーッとなりやすい性分なんは認めるけど、分かってんならウンとかスンとかゆうてくれたらええのに。でもいつだって彬光は無口で、俺ばっか興奮してほんと虚しくなる。それやのに、荒々しく荷物をまとめて半同棲状態になってた彼のマンションを腹立ち紛れに出ていこうとするのは、馬鹿力で強引に引き止めるんや。呆れたみたいな表情で。アホがまた興奮しとるわ、と言わんばかりに。どうせアホや。知っとるよ。彬光は大学もエエトコ出とるし、俺は高卒やし。でもまともに取り合って貰えへん悲しさって、そういうの関係あらへんやろ。
同じ部屋にいとうなくて無言のまま狭いベランダへ逃げ出した。スポーツブランドのモノトーンのゴムサンダルに足を通せば晩秋の夜風が冷やしたそれが冷たくて、寒さが腹立ちの奥の悲しみを誘って、滲んでくる涙を拭ってベランダの柵へ身を預けた。あいつは追いかけて来ん。謝りもせぇへん。その前に悪かったなんて思ってへん──
ひとつひとつは些細な不満。でも積もれば恋心だって情だって、窒息させることが出来るんや。
さっきだって発端は今日休みで家におった彬光が昼飯を食べた後、茶碗半分も残ってないご飯を釜に残したまま炊飯器の保温をそのままにしてたことだった。電気代がもったいないから食べ終わったら切っといてくれって頼んだのに。釜いっぱいのご飯を温めてんならまだしも、今朝、俺が炊いてから仕事を終えて帰ってきた今まで、ほんのちょっとのご飯を電気余分に使って温めてたんかと思うと、腹が立ってしょうがなかった。
確かに小さい事やよ。ここは彬光の家で、電気代払ってんのも俺ちゃうし。分かってるけど、もう3年近く同じこと言い続けてんのに未だに気ぃつけてくれへんってなんなん?
無くなったティッシュやトイレットペーパーは補充しといてとか。歯磨き粉のチューブは真ん中を握らずにケツから絞るようにしてとか。洗濯機に靴下入れる時はうらっ返しに脱ぐなとか、ズボンのポケットに小銭やらレシートやら入れっぱなしにするなとか。飲み終わったペットボトルはパッケージ剥がしてゆすいで所定の袋へ、とか!
上げ始めたらキリないけど、一緒にいる時間が長くなれば長くなるほど、暮らし方の差やこだわりの違いがハッキリと分かってそれが鼻についた。
それにここ最近突然連絡もなしに飲んで帰って来て作った夕食が無駄になるとか、俺の手作り弁当を忘れてくとか、この間なんか久し振りに休みが重なったからデートの約束をしてたのに、すっかり忘れて俺が起きたら散髪屋に行ってそのままパチンコ行ってたとか……なんか……とにかくそういうのが色々重なって、あちこちで燻っていた火種が炊飯器のスイッチひとつで一気に燃え広がった感じ。
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