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三人が食堂に入ってくる。案内しているのは同期の早苗だ。一人は高崎室長で、背の高い、もう一人の男に小声で話している。その男は、180センチくらいで、浅黒く灼けた肌に白い歯、スーツが似合っている。似ている。まさか。三人がこちらに近づいてきた。もう間違いない。男の客は、シンヤだった。
「板倉、ちょっと今いいか?」と高崎室長が声をかけた。板倉は返事をしながら、席を立つ。早苗が、あ、という顔になった。
「こちらは、コンサルタントの玉村慎也さん。わが社にアドバイス頂くことになった。玉村さん、彼がプロジェクトリーダーの板倉くん、そしてメンバーの前橋いつきです」
いつきが慌てて席を立った。名刺交換の後、慎也は爽やかに笑いながら、話しだした。
「プロジェクトの話は聞いています。素晴らしい取り組みですね。これから勉強させてください」
「いや、こちらこそ」
板倉は応じた。
「昼休みの食堂まで視察ですか。熱心ですね」
「担当する以上、御社の一員のつもりです。社員が知っていることは知っておかないと」
「当社、アカツキ製薬はどうでしたか?」
いつきが口をはさんできた。興味津々の目をしている。慎也はふっと笑った。
「いい会社です」
慎也は早苗を見ながら答えた。
「掘り起こせば、光るものが出ると思います」
「でしょでしょ、ボクもそう思います!」
高崎室長を除く、全員が笑った。愛はただ見ていた。見つめるしかない。別世界の出来事のようだ。
「あ、君、この間はありがとう」
突然、慎也が愛に声をかけてきた。
「あの、桐生さんをご存じですか?」
「ここに来た時に右も左も分からなくて、道案内してもらっちゃって。本当にありがとう」
愛は、いえ、と言いながら、愛想笑いした。
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