彼女の呼び声

『女性声優　交通事故死』

　僕は事務所の会議室で、スマホに映るそのニュースを呆然と眺めていた。
　彼女が亡くなってから早一ヶ月。最初に報せが舞い込んできた時、僕は耳を疑った。

　――上原がトラックにはねられた。
　――急に道路に飛び出したって。
　――目撃者が言うにはふらふら赤信号で飛び出したとか。

　彼女の状態は非常に悪く、特に出血が酷いらしい。
　僕はマネージャーとして彼女をずっと見てきた。
　ようやく夢が叶う日が来たって言うのに。よりにもよって、どうしてこんなことになってしまったんだ。
　すぐにでも病院に……そうだ。まずは目前に迫った先方に連絡をしなくては。
　僕はスマホを手に取り、収録現場に電話をした。
　プロデューサーに事情を話してお願いするんだ。上原さんの収録を延期して欲しいって。
　だけど、話しても話しても先方は僕の言葉を理解してくれない。それどころか、遠回しにこの話を白紙にしたいとも言ってきた。
　なぜだ。上原さんは大丈夫なのに。この日のためにずっと頑張ってきたんだから、絶対に戻ってくるのに。
　そのうち、電話ではらちが明かないと思った僕は事務所を飛び出そうと席を立ってドアノブに手を伸ばした。
　だけどその時、肩を叩かれそれを止められた。
　肩を叩いたのは僕の上司だった。
　上原さんの心肺が完全に停止したらしい。どうやら僕は、彼女の状態が変わるくらい長時間電話をしていたようだった。