泥棒失格

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 夜の闇にどっぷり沈んだ住宅街を歩いていると、アパートの一室から赤ん坊の泣き声が聞こえた。瞼の裏に昼間見た光景がよぎる。派手な化粧をした母親が赤ん坊を抱いていた。  職業柄、俺は住民を調査している。家族構成、職業、収入など。刑事のように嗅ぎまわり、めぼしい家に狙いをさだめ金目の物をいただく。それが俺の仕事。つまり泥棒だ。  午前中めぼしい家をいくつかチェックし、住宅街のはずれにある喫茶店に入ったときのことだ。窓際のテーブルにつくと、道路を挟んだところに二階建ての小さなアパートが見えた。ちょうど玄関から若い女が赤ん坊らしきおくるみを抱えて出てくるところだった。  肩まで伸ばした栗色のソバージュ。化粧が濃く、黒目がちな瞳であたりを窺っていた。  年のころは二十代前半だろうか。いつもの癖で人間観察をしていた。それから住まいについても。  灰色のアパートは築四十年ぐらい。ワンルームの一人暮らし用のアパートだ。そこに赤ん坊を連れて暮らしているとなると、決して楽な生活ではないだろう。ダンナの職業はなんだろう。それほど稼ぎのいい仕事でないことだけは容易に想像がついた。  こういうアパートに用はない。俺はもっと稼ぎがいいやつの住処を狙う。すでに目星はつけてあったし、とくに気にも留めなかった。そのときは。
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