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イレギュラーな状況での判断ミスで、店に辿り着く頃にはカスタードたまごぷりんなど、跡形も無く売り切れていた。
膝を崩して項垂れる俺に店長の正弘が言った。
「珍しいな、今日は寝坊したのかい?」
俺はか細い声で答えた。
「……自転車を盗まれていなければ」
「自転車?」正弘が聞き返した。
「……自転車さえあれば」
「あの赤いママチャリかい? 右手のハンドルにミラーがついた」
「……はい。その自転車、え??! どこで観たんですか???!!!」
正弘は自転車泥棒とすれ違っていたようだ。
「朝早くからここをまっすぐ突っ切って行ったよ」
正弘の指す方向を睨みつけた。
人とは愚かな生き物だ。特に食が絡むと見境が無い。復讐心に駆られた足は瞬く間に轟く車輪となり、横丁を駆けた。
「自転車泥棒に追いついてみせる!」
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