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「なっちが今日、街を出るって」
清香は目を逸らして唇を噛み締めながら俺に言った。
『教えたく無かった』と清香の心の声が聞こえた気がした。
那智。俺の幼馴染、初恋の人。
小学4年の終わりに両親の都合で街を離れて転校した。でも、高校1年の春にまた戻ってきた。親戚の叔母の家に居候しながら今日まで一緒に過ごして来た。
卒業を目前に控えてまた転校するなんて。
有名大学附属の高校に編入学する事になった那智は別れも告げずに俺の前からまた居なくなろうとしていた。
清香は「行きなよ。まだ間に合うかもしれない」と俺に背中を向けたまま言った。清香の時折揺れる肩を見て、涙を流している事を察した。
清香とは家族絡みの付き合いだ。いつも側にいてくれた。同じ学校に通い、同じ部活に入り、同じクラスにもなったりした。
親友だと思っていたが清香はそれ以上の気持ちを抱いていた。
「ごめん」と俺は短く言葉を言うと、駅の方へ走った。
走り去る間際、俺の声に清香が振り向いた事に気が付いた。横目から見えたその哀しそうな顔の清香が何か言いたげだったが、俺は振り向く事なく那智のもとへ向かった。
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