16人が本棚に入れています
本棚に追加
/151ページ
しんと静まり返っている廊下。日が沈んだ直後のようで、まだうっすらとオレンジ色の光が残っている。
「ど、どうするんですか……大体、下手に動いたら、追手が来るんじゃあ」
「そんなこと、今考えても仕方ないだろう!」
階段の方へ歩き出そうと吾郎が足を動かした時、その背後で軽やかな音が響いた。
「しめたっ!」
タイミングよく、エレベーターがやって来たのだ。その内部は煌々と明かりに照らされ、彼らを迎え入れるようにその扉を開かせる。
吾郎はくるりと振り返って、エレベーターの方へ走り出した。
「ちょ、ちょっと待ってください……!」
万吉は咄嗟に、ありったけの力をこめて踏ん張った。だが、最早エレベーターにしか逃げ道を見出していない吾郎にとっては、そんな妨害は何の効果ももたらさない。
万吉は吾郎に引きずられ、結局一緒にエレベーターに乗り込んだ。
吾郎が肘を使って器用にボタンを押すと、エレベーターは正常に動き、扉を閉める。
「どうするんですか……っ!」と万吉が焦った様子で声を上げた。「これじゃあ、出口で待ち伏せされておしまいですよ……!」
「馬鹿言うな! だったら、二人でちんたら階段を降りろとでも言いたかったのか!」
やいのやいのと言い争っている間にも、エレベーターは下へと向かっていく。電灯は正常に、「4」から一つずつその数を減らしていった。
「もっと慎重に行動すべきでしょう……!」
「そんなことしてられるか!」
「何をそんなに慌てる必要が……」
その時、万吉はふと気が付いた。
「……吾郎さん」
「何だ!」
「お金は置いてきたんですか?」
すると、彼は声を荒らげるのをやめて、黙りこくった。なるほどと、万吉は漸く納得する。
彼のことだ。きっと拉致される直前にもいつものように札束をいじっていたのだろう。目を覚まして、それが見当たらないから動揺しているのだ。
最初のコメントを投稿しよう!