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すると、それまでへらへら笑っていた旭の口角が、次第に下がっていった。
「万吉先生……死んじゃったらどうしよう……」
「まあ……キンダイチがなんとかしてくれるだろ」
吾郎の無責任な発言に、旭はぎょっとして顔を上げる。吾郎は立ち上がって、彼の手を取ろうと手を伸ばしていた。
「私らではどうすることも出来ん。逃げるが勝ちだ」
「そんなこと……できないよ……」
「なら、お前には何ができるんだ? 言ってみろ」
あっという間に、吾郎に逆転させられていた。旭はその口を、小さく震わせる。
「ずるいよ、吾郎さん……僕が子供だから、言い返せないと思ってんだろ」
「大人の私がどうすることもできないと言っとるんだ」
「……優輝くんに、謝らなくちゃ」
旭はぐっと拳を握って、吾郎を見据えた。
「スケープゴートを、傷付けちゃったんだ。優輝くんを泣かせちゃったんだ……」
「それは、お前がやったのか?」
旭が大きくかぶりをふると、吾郎は少し目を逸らし、顎を撫でた。
「万吉先生ですよ」
その言葉は、吾郎の背筋を鋭く撫でた。振り返ろうとしたその時、背中に激痛が走り、彼はその場にうずくまる。
「都合よく、相打ちになってくれました」
崩れ落ちた吾郎の向こうから現れた右藤の姿に、旭は目を見開く。右藤は片手に、優輝の首輪を掴んでいた。そこに繋がれた優輝は、憔悴しきった様子でぐったりとしている。
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