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その瞬間だった。階段を駆け上がる鋭い足音が近づいてくるのに気が付いた。右藤の手を払いのけて振り返ると、薄暗い廊下に佇む、背の高い影が見えた。
「キンダイチ先生え!」
嬉しそうに叫んだのは右藤だ。
「お待ちしておりましたあ! ほら! あなたの大事な大事な旭くんが!」
そう言うと、旭の肩を乱暴に引き寄せる。ポケットから出したスイッチを掲げる。
闇の中で、一はじっと右藤を見つめている。
「キンダイチ、助けて……」
「見てくださいよ、ほら! 優輝くんがつけていた首輪! あなたもよくご存じでしょう? 旭くんが自分からつけてくれたんですよ、勇敢ですねえ! 流石あなたの助手だ!」
「……旭くんを放してもらおうか」
「いいでしょう。ではこちらへ」
「スイッチはしまって」
「勿論」
右藤の手が、ゆっくりとズボンの後ろのポケットへしまう。一はゆっくりと、右藤の方へと歩み寄り始めた。
右藤の背後でうずくまっていた吾郎の目に、右藤の手の動きが映る。彼は後ろのポケットにしまっていた拳銃へと、その手を滑らせていた。
「キンダイチ! 近づくな!」
重い身体を持ち上げて、吾郎は右藤に飛びかかった。不意を突かれた右藤はよろめいたが、なんとか取り出した拳銃を吾郎に向ける。すぐさま引き金を引かれた銃口から飛び出したお札が、吾郎の胸に勢いよく貼り付いた。
「ぐわっ……!」
「吾郎さん!」
「これがあなたの協力の賜物ですよ! キンダイチ先生!」
銃口はすぐさま、一の方へ向いた。一は咄嗟に姿勢を低くしたが、当然右藤にはお見通しだった。
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