追憶の君

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「夏希!」  僕は思わず大きな声を上げてしまう。  まさか……夏希が……  最悪の事が頭の中を駆け巡る中、小さな音が僕の耳に届いた。 「夏樹?」  夏希が微かに目を開けて、か細い声で僕を呼んでいる。 「そうだよ。夏樹だよ! 夏希、大丈夫か」  大丈夫でない事は分かりきっている。  でも僕はどうしても夏希の口から大丈夫って言葉を聞きたかった。 「だいじょう……ぶ。ねぇ夏樹、あの場所に行こう。二人のあの場所」  どう見ても無理な状態だ。  でも僕は夏希の言葉を否定できなかった。いや、否定したくなかった。  和室の隅でお母さんと思しき女性がすすり泣いている。お父さんも気丈に振る舞ってはいるが、涙を必死に堪えているのが分かる。 「うん。行こう夏希! 二人のあの場所へ」  と僕が言うと、夏希は精一杯微笑んでくれた。 「夏樹、あの絵ね、完成したよ。 月の絵もあるから夏樹にあげる」  夏希が指す方に目を向けると、二枚の絵が綺麗に額 に飾ってあった。 月の絵と僕の絵が横に並んでいて、あの二人の日々を思い起こさせる。それを見た瞬間、僕は涙が溢れ、止められなくなった。
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