追憶の君

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 僕はそれからどの様にして帰宅したのか覚えてい ない。夏希の両親から夏希が寂しがるから今夜は泊まっていってと言われ、夏希の実家に泊まった事だけは覚えている。  夏希と同じ和室に布団を並べて一緒に寝た。朝起きたら隣に夏希がいる。昨日までと何も変わらない距離で、僕の隣にいてくれている。唯一の違いは夏希が生きているか死んでいるかだけ。その僅かな違いが僕の心を強烈に締め付ける。 「夏希、おはよう」  そう言うと、僕は夏希にそっと二回目のキスをした。不謹慎かも知れないけれど、そうせずにはいられなかった。  気付けば僕は街をフラフラと歩いていた。毎日同じ様に歩いて、同じ様に見ていた景色がとてもくすんで見える。夏希がいる世界といない世界ではこうも見え方が違うのか、と思った。  ガヤガヤした都会の喧騒や排気ガスの臭いさえも何も感じないぐらいに、僕のあらゆる神経は機能しなくなっていた。久しぶりに雨が降ってきたけれど、傘をさす元気すら湧いてこない。僕の心理状態を示しているかの様に、雨足は激しさを増していく。僕は空から降る涙を一身に受け、屍のごとく家路に着いた。
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