追憶の君

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 帰宅後、僕は何もする気力が湧かず、ひたすら寝て 過ごした。目を瞑ると夏希の笑顔が頭に浮かび、胸が張り裂けそうになる。 それと同時に頭を掻きむしりたくなる衝動に駆られる。  今の僕は生きていない。ただ、そこに存在しているだけだ。どうしても夏希の死を受け入れられない僕は、夏希から貰った二枚の絵を取り出して眺める事にした。絵の中の僕は屈託のない笑顔をしていて、今の僕と同一人物だと信じられないぐらいに輝いている。月の絵も本当に綺麗だ。この二枚の絵からは夏希の命を感じさせる。  そうだよ。夏希は死んでいない。夏希が死んでいるなら絵の中の自分はこんなに笑っている訳がないし、月だって輝いている訳がない。  僕の思考は狂い始めていた。いや、狂わずにはいられなかったのだと思う。  きっと夏希はあそこにいる。雨が止んだ外の風景を見て、きっと夏希が自分を呼んでいるんだと思っていた。夏希が待っているから行かなきゃ。そう思った僕は、急いで家を飛び出した。
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