追憶の君

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 あの日と九十九パーセント一致している。でも何か足りない。いや、足りないものは分かっている。夏希だ。このまま僕が右往左往していたら声を掛けてくる はずだ。 「多分、ここだと思うよ」  僕はいつにも増して、耳を澄ましながらその言葉を待っていた。もう条件は揃っている。あとは夏希が声を掛けてくるだけだ。しかし、いつまで待っても聞こえてくるのは川のせせらぎと虫の声だけだった。一番聞こえて欲しい音が聞こえてこない。僕は現実を受け止められずにいた。  あの場所に着いた。そこにあるのはコンクリートの置物だけだ。万が一、夏希が上で寝転んでいて、下から姿が見えていないだけという可能性を信じて、僕は梯子を上った。  あの場所に夏希はいなかった。いつも二人だった場所に、僕は今一人で座っている。夏希がいるのといないのでこんなにもこの場所が違って見える事に驚いた。殺風景で何もないな、と思った。不思議とあれだけ近くに感じていた月への距離も、夏希がいないだけで随分と遠くに感じられた。
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