俺はヒーローになれない

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「大丈夫?」 「だいじょばない。ママ〜、ティッシュ」 「私は貴方のママでもティッシュでもありません」 「私の愛しのさゆりさん、ティッシュを取ってくださいますか?」 「よしよし、偉い偉い」  赤子の鼻水を拭く結婚3年  よだれと鼻水塗れの、世界一可愛い生命体。 「俺さ、君の何者にもならないところ、好きだ」  突然の告白に彼女は面食らった顔をする。 「私は、何者にもなれちゃう貴方が好きだよ」  良い大人なのに、彼女は俺の頭をポンポンしてくる。俺も甘んじてポンポンの刑を受け入れた。 「甘えん坊、お調子者、泣き虫、怖がり、意地っ張り。まるでテレビみたいな人。色んなチャンネルがあって、飽きる暇がない。でも、推理物はやめてね? 嘘を見抜くのは苦手なの」 「嘘つき」  知っているよ。俺の渾身の「大丈夫」の名演技、あれを見抜いた君はホームズ顔負けの名探偵だってこと。 「愛してる」 「今日はラブロマンスの日なの?」  赤く染まった頬の熱まで愛おしい。君に愛を囁く時、俺は役者でいられない。  俺を俺にしてしまう。  君には本当、敵わない。    
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