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「ま、待てっ」三人も、慌てて、その後を追おうとしたが
履いている沓は、落ち葉の上では滑るし、木の根には躓くしで
物凄く歩きにくく、おまけに、着ている豪華な着物の
袖や袴が、木や草に引っかかって、なかなか歩けない。
途中に、金糸銀糸で刺繡をされた、雅が着ていた、重い上掛けが
脱ぎ捨てられていた。
その上掛けを拾い上げて持ち、やっと新太たちに追いついた三人は
新太が作ったとみられる、竹筒で、旨そうに水を飲んでいる、雅の姿を見た。
喉が渇いていた三人は「私にも、その竹筒を作って、水を汲んで来てくれ」
と、新太に言ったが「嫌だね、俺は、あんたの家来じゃない」と、断られる。
「な、生意気なっ、ただの平民のくせにっ」光が、怒鳴る。
しかし、新太は、平気な顔をしている。
「まぁまぁ、新太とやら、私が、お前を召し抱えよう、それなら良いだろう」
伊織が、そう言ったが「嫌だね、宮仕えをすれば、嫌な事でも
主人の言う事には逆らえない、宮仕えだけはするなって
祖父ちゃんに教えられたからな」新太は、そう言った。
「それなら、うちが雇うよ、うちは宮家じゃ無いし、この二人の家に負けない
いや、それ以上に、お金は有る、お前の望むままに出そう」
直政はそう言ったが「嫌だよ、金なんか、少し有れば良いんだ
山のように持っていても、天変地異の時は、何の役にも立たないって
おっ父が、言ってたからな」新太は、また断った。
「天変地異?これがか?」光が、馬鹿にした顔で言う。
「そうさ、ここは、都周辺の、どこの山でも無い、俺の知らない山だ」
「お前、その若さで、都周辺の山を全て、把握していると言うのか?」
伊織が、驚いた顔で言う。
「まさか、ただの、はったりだよ」良い話をしてやったのに、断られて
むくれている、直政が、そう言う。
「何とでも、思えば良いさ、姫様、そろそろ行きましょうか」
「おいっ、何処へ行くんだ」「待てよ、俺たちを捨てて行くのか」「水は?」
口々に言う三人に「水なんか、竹筒が無くったって
こうして、手ですくって飲めば?あんたら、子供なのか?」
新太はそう言うと、岩の陰に流れている、水をすくって見せた。
「そ、そんな所に、水が有るなんて、、」「早く言ってくれれば」
「私だって、それ位なら出来る」三人は、先を争って、水を飲んだが
初めての事に、着物を、あちこち濡らしてしまった。
「着物が水で濡れてしまった、どうしてくれる?」そう言う三人に
新太は、ため息をつき「濡れた着物が嫌なら、脱げば良いだろ」と、言った。
「そうか、じゃ、脱がしてくれ」伊織がそう言うと
「自分で脱げないのか?赤ん坊じゃあるまいし」と、新太は、呆れる。
「私は、貴族だ、貴族は、自分で着物を脱いだりしない」
伊織は、胸を張ったが「へ~貴族って、馬鹿みたい、一人で脱げないなら
そのままで居ろよ、俺は、あんたに、仕えている訳じゃないからな」
新太は、もう、取り合う気も無いように言った。
「仕えていない?だが、雅殿には、随分、仕えているではないか」
又も光が、皮肉たっぷりに言う。
「あったりまえさ、女の子には、優しくして、守ってやれって言うのが
おっ母の教えだったからな」「では、醜い下女でも、助けるって言うのか?」
「そりゃ、そうだよ、どんな女でも、俺より弱いからな」明確な答えだった。
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