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「先生?」
彼はきょとん、とした顔をする。間違えるわけがない。ほくろの位置まで同じなのだ。
「久我風音先生ですよね?私の家庭教師してくれてた!先生が大学ニ年の時です。私、七瀬凛雨です!」
興奮しながら一気にそう言って、もらったばかりの社員証を見せると、先生は『うーん?』と首を捻った。その仕草も先生その人のものだ。
───生徒がたくさんいて覚えてないのかな。私もあの頃よりは大人になったし。
付き合ってはいなかったとは言え、体を重ねたのに忘れられているのは悲しかった。
「覚えてないですか?うち、亀飼ってて先生もよく話しかけて───。」
「悪いけど他人の空似とかじゃない?」
「絶対にそんなことないです。先生、秋桜の花好きでしたよね?私も好きで一緒に画像見たり───。」
「仕事。始めようか。」
先生は私の言葉を遮ってきっぱりと言った。
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