「誕生」

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「誕生」

「貴方の病名は『男女不可無症状症候群』です。」 淡々と病態を口にする医者を見ながら彼?は聞いていた。 それは、彼?戸町 (ヨル)が生まれて初めて医者に診断された症候群…言わば病態だ。しかも気づいたら真っ白なシミひとつない天井を見上げ、病院のベットいると言う状況だ。 初めて聞いたこの病症は男女“どちらでもない”生物…人間となってしまうそんな不思議な症状。 病院のクーラーが効きすぎてきたのか鳥肌が立ってきたが頭が動いていないせいかとても気にならなかった。 今の彼?が一つ言えるのは彼?はこの症候群を聞き、ただ口が開き、考えがまとまらないこととしか言えない。 脳内の情報が処理できていないのか、しばらくの間口が開いていた為、口を閉じた時には喉がカラカラになっていた。 “理解”できない。それが脳内にでた結論であった。 無常にも医者は淡々と話していく。 「とても珍しい病態で、縁さん貴方の場合には記憶喪失も見られます。ご自身の元の性別を言えますか?…」 そんな当たり前のことを……そんな風に思ったが頭に靄がかかり思い出すことができない…喉に言葉が突っかかってきてるのに言えない…その状況に呆気に取られていると医者はまた喋り出す。 「貴方の場合、18年間の記憶と自身の“性”に関することが記憶から切り抜かれています。 なので生活する上では以降のことを…」 丁寧に目の前で喋ってくれる医師には申し訳ないが(ヨル)には先程から内容が頭に入ってこない。 長い説明を受けたあと空っぽで真っ白な頭と共にゆっくりと重たい足で診察室からさって行った。 病院から去り、行くあてもなく、ただ歩いていく、それしか(ヨル)には考えがなかった。 いや、考えがないと言った方が正しいのかも知れない。 外に出て歩くと病院との気温の差が凄くジワリと汗が出て服にくっつく。蝉のけたたましい鳴き声が夕方の街に響き、まるで自身の存在をしめすかのように聞こえてくる。蝉が活動しているほどかなりの暑さだが、そんなことより、先程、医者が行った言葉が(ヨル)の頭によぎる。 「18年間……か……」 性別がなくなっただけなら“まだ”良かった…しかし当本人の記憶さえ無くなるという悪趣味な展開… 重い腰をベンチに置きまた(ヨル)は考えた。 「自分は……誰……なん…だ…」 中身が空っぽで満たされてない…パズルをやる時最後の一個の大切なピースが足りてない…(ヨル)自身の見た目でさえ中性的な顔で中性的な髪型………“性別”でさえ中途半端な自分にしか今の自分に思うことはなにもなかった… 医者によると今年で19歳、普通なら就職しているか、大学に進学しているかのどちらか。 つまり、高校卒業後…今のような状態になってしまったようだ。 しかし、年齢以外何も情報がない、この状況からどうすればいいのかと(ヨル)は頭を悩ます。 彼?が知りたいことはただ一つ“自分”は何者なのかただそれだけであった。 知らないのなら知ればいい… 単純な思想だけどそれしかない…自分を知るには考えがないのかも知れない、だが知らないよりはマシだと言える。 日が暮れり、辺りが少しずつ肌寒くなっていく夜。電柱についてる灯りがまるで彼?“舞台”のライトスポットように見える。 この舞台のキャストとして、真相を…最後を締める為彼は動く… 今日から『ヨル』は夜の街を歩く。 空白の十八年間を取り戻すために…埋めるために……
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