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「すみません!遅れました!」
「記憶喪失君、五分前だ。遅刻にはなってない、安心しろ。」
初出勤なのに遅刻と言う最悪な結果にはならなかった為安堵のため息をヨルは吐いた。
「良かった…あの、今日のお仕事は?」
そう、必要な書類などにはサインなどはしたが詳しい仕事内容は言われてないのだ。
「記憶喪失君の仕事は、【掃除】だ。二階から一階まで、一時間でチリ一つ残さないくらい掃除してもらう。」
「………本当ですか?」
見た感じ、此処の二階から一階までだと、二階はまだ見たことないが一階がこんなに広いって事は二階もかなり広いと言える…どうすれば効率よく終わらせることが出来るだろうか?そもそも、効率的にそれを一人で掃除すると言うことは……一人で葛藤しながら考えていると、蒼葉が口を開いた。
「嘘だ、安心しろ。」
「嘘なんですか!?」
不意に肩を叩かれたと思い、後ろを振り向くとスケッチブックを手に持った人がいつの間にかいた。最初から店内にいたのだろうか?もし、お客さんならドアを開けた時ベルの音が鳴るだろうし、この人も仕事の先輩なのだろうか?
驚きの余り少しフリーズしてしまったがよく見るとスケッチブックに何か書いてあるようだ。
『新人さんを揶揄いすぎるのはのはダメですよ。蒼葉さん』
「すみません、琥珀さん。新人君が揶揄いがいがあって。」
2人の会話を聞きながら辺りを見渡していると2階の階段からコツコツと音がした。どうやら、上に誰かいた様だ。
『先生、準備が出来たのですね』
素早くスケッチブラックに文字を書きながらスケッチブックを降りてきた人に見せる。
先生と書かれた人は眼鏡をしており、髪は綺麗な亜麻色だ。
「はい、準備が出来ましたよ。琥珀君、それと蒼葉君と、えっと」
「ヨルです」
「ヨル君よろしくね、初仕事は私の助手です。」
「…………助手?」
驚きのあまり少し気の抜けた返答をしてしまった。自分は今日カフェのバイトをしにきたはずじゃ?……もう少しキチンと書類を読めばよかったとヨルは後悔した。
『この様子じゃキチンと書類見せてないですよね?蒼葉くん?』
琥珀さんの笑顔が若干陰ってる様に見える。
その顔を見た蒼葉は顔から血の気がひいたかの様に青くなっていく。
「嫌だなぁ、琥珀さん、僕書類読ませましたよ?……多分記憶喪失君が忘れているだけですよ。」
チラリと此方を見る蒼葉の表情はとても慌ててるが、その視線には【言ったら、わかってるよな?】とでも言うかの様な黒い笑みも含まれている。……契約してしまった為コチラとしては強く言えないが、ヨルとしては時給よしの、記憶喪失の自分をやっとってくれる美味しい職場は中々ない為職場環境を悪くはしたくない。
「……はい、多分自分のうっかりです。」
「まぁ、どちらでもせっかくだし今回は、説明させて頂きますね?この建物は一階はカフェ、二階は私達の事務所となっていてどちらも、カフェのオーナーさんが兼営してるんですよ。」
「へぇ……」
『その事務所には日本一の名探偵【紫苑】先生がご活躍されているのです!』
「琥珀さん、そんな大袈裟に言わなくても……」
「いやでも、紫苑さんの推理力は本当凄いですよ」
「蒼葉さんも嘘をつかない」
「『嘘じゃないんですけどね』」
それほど凄い探偵さんがこの街に……職場にいるなんて…世の中が狭いことがヒシヒシと伝わる。褒められ慣れてないのか少し頬が桃色に変化している。そして、先ほどのことがなかったかの様に紫苑さんは琥珀さんに目を合わす。
「で、琥珀さん今日の仕事は?」
『えっと……ちょっと待って下さいね?』
スケッチブックにそう書くと琥珀は自身が型にかけていたポシェットから少し小さめなノートを取り出した。
見る様子からだと依頼か何かをまとめてるメモ帳的なものだろう。
『猫の珠さんを探して欲しいと言う依頼です。』
「猫?」
日本一の名探偵がそんな依頼をやるなんて少し意外とヨルは思った。“猫探し”だなんて正直売れない探偵がやるものだとイメージしていた。
「えぇ、新しく依頼がきましてね。」
『探偵と言うものは事件だけではなく依頼されたものなら…人の役に立つなら何でもやるのですよ』
ニコリと微笑みながら書き込む琥珀その隣で少し挑発的な笑みを蒼葉は浮かべた。
「まぁ、それに記憶喪失君にとって初めての仕事だしこれで良いと俺は思うぜ。」
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