幻の大泥棒

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 城の東側にある塔の窓から、スラム街が一望できた。  スラム街より更に奥は、森が広がっている。  その森を抜けた先に深い渓谷へ突き出た崖があり、その先端で、無造作に置かれた色鮮やかなガシャポンが、周囲の景色とは不釣り合いに存在感を見せていた。  不穏な暗雲から降ってくる雷鳴に慄きながらも、森の中を抜ける三人の人影があった。  フードの付いたマントを被り、足取り早く、噂の崖へと向かっている。  しなやかな輪郭を浮かべるベージュのマントに身を隠した人物は、フードの縁から垂れるブロンドの長髪から女性だと分かる。  すぐ後ろを、黒いマントに身を隠した兵士が二人、着いて行く。 「あったわ」    女性がフードを外すと、柔らかな細髪がサラサラと胸元へ零れ落ちた。  スラリとした鼻筋に優しみのある唇。その整った顔立ちは、到底、スラム街の住人のはずが無かった。   「こりゃ驚いた。まさか本当に実在するとは」    黒いマントの背の高い一人が言った。   「セーラ様、本当に願いが叶うのでしょうか? ただの迷信に頼るなんて、私には理解できません」    もう一人の背の低い男は、目の前のガシャポンを見てもなお懐疑的だった。   「スケ、それでもなのです。ここへ来る途中に抜けて来たスラム街を、あなたも見たでしょう。我が国は、迷信にでも縋りたいほど悲惨な生活を強いられている民が多くいるのです」 「ですが、泥棒に頼るなんて……」    スケは口を尖らせた。   「まあ、そう言うな。もしも国宝が戻ってくれば、それはそれでラッキーではないか」    最初の男が言った。   「カクはいつもそうだ。お気楽な性格なんだから」    セーラは、懐から取り出したカプセルを、包み込むように両掌に載せた。切実な想いが宿る瞳には、映り込んだカプセルが滲んでいた。   「どうか、我が国をお助けください――」  
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