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「痛い痛いよぅ」
「どうしたの」
「手のひら盗まれたー」
「わ、ずるずるじゃん」
泣きながら教室に入ってきた親友が、ずるずるの両手のひらを目の前に掲げてみせる。
「パック詰めの鶏モモみたいだね」
「毎朝おにぎりを握ってほしいって言われて、断ったらこのざまですよ」
「ご愁傷様」
「痛いいー」
「早く手のひら返してもらっておいで」
「うん……」
すごすごと親友が教室を出ていく。
一限開始のチャイムが鳴っても、親友は帰ってこなかった。とうとう午前の授業がすべて終わり、昼休みに突入したとき、教室の隅のゴミ箱になにかを放り込んだ親友が笑顔で戻ってきた。
「じゃーん」
元通りになった両手のひらを満面の笑みで振ってみせる。
「遅かったね」
「ずーっと手のひら返してって、ずーっと追いかけてたんだよ、超疲れたよ」
「超お疲れ様」
隣の席の椅子を恭しく引いてやり、菓子パンも二つ分けてやる。
数時間に及ぶ追いかけっこの果てに、親友は手のひらを盗んだ犯人を男子トイレの個室に追い込むことに成功したらしい。
「『お前の手のひらなんかいらねーよばーか!』って、手のひら投げつけてきてさ」
「とんだ手のひら返しだね」
「頭にきたから、お返しにそいつの手のひらを剥ぎ取ってやったわけよ」
「とんだ手のひら返しだね」
そのとき、一人の生徒が泣きながら教室に駆け込んでくると、一直線にゴミ箱に飛びつき、ゴミまみれになったなにかを掴み上げるとあっという間に走り去っていった。
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