出原 祥と恋人・七居 陽呂との関係性

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出原 祥と恋人・七居 陽呂との関係性

あの七居が地味ヲタと再び付き合い始めたという話は、あっという間に校内に知れ渡ったようだった。しかも、今度はゲームでないようだ、と。 教室に居ても廊下を歩いていても、何処に居ても誰かの視線がチクチクと刺さってきて、僕は何だか面倒な事になったなとうんざり。 小学生の頃から北欧人の祖父からの遺伝なのか、周囲から頭一つ程身長が高かったせいでチラチラ見られる事はよくあった。けれどそれは単純な驚きによる一過性のものに過ぎなかったから、それほど気にした事はなかったのだ。けれど七居と付き合い始めてから向けられるようになった、不躾に値踏みしてくる好奇心や嫉妬混じりの視線は、とても居心地が悪くなるようなものだった。 (七居が飽きるまでの我慢だ。) 僕は自分にそう言い聞かせた。 そう、飽きるまで―――。 正直、僕は七居が僕と付き合おうと思った理由がわからなかった。実は今でもわからない。 というか、それを知っても意味が無い。 その内飽きてくれたらそれで良い。そう思ってた。 だから、マジ告白で付き合い始めてから1ヶ月くらい経った辺りで、七居が可愛いギャル風の女生徒と一緒にホテルに入って行くのを見掛けた時も素通りしたし、その翌日、昼休みに会った時、他の人と付き合うから別れようと切り出された時も二つ返事で了承した。 正直、ホッとした。 それから僕には平穏な日々が戻った。周囲の目は、何故か気の毒そうだったり、(やっぱりな~。)と納得した感じだったり。 あの七居が僕なんかを本気で相手にする訳がないよな~、というところだろうか。ま、その辺はどうでも良い。 僕は他人にペースを乱される事の無い、以前と同じ生活に戻った。七居と居る事に気疲れして体力奪われたりしないから、夜も早々に寝なくて良くなったからだ。 そしてマイペースに毎日を過ごして3週間。 七居は僕に復縁を求めて来た。 『やっぱり出原が良い。』 有り得ない。最初はゲームだったとはいえ、短期間で既に2回別れてる相手に復縁要請? 『え、もうあの彼女と別れちゃったの?』 僕が半ば呆れながら言うと、七居の左眉がピクリと上がった。 『俺、相手が女だって言ったっけ?』 七居が訝しげにそう言ったので、 『別れる前の晩にホテルに入ってくの見たから、あの子かなあって。違った?』 と言うと、呆気にとられた顔をされた。 『…見てたのに、止めなかったの?』 『え、止めた方が良かったの?』 呆然と呟くように問う彼にオウム返しのように問い返すと、七居の表情は何故か少し歪んだ。 『……出原って、俺の事好きになんないね。』 そんな事を言われても、何と返して良いのか。 『なんで?俺、浮気して出原を裏切ったのに、腹立たないの?』 何でと言われても、と今度は俺の方が困った。 付き合ったら好きにならなきゃいけないのか?それにそんな短期間でホイホイ好きになれるもんなんだろうか?好きになってない相手の心が他の人に向いたからと言って、困る訳も無し。 リアルの人間に魅力を感じない僕には、よくわからない。 しかしそんな事を馬鹿正直に口にできる訳も無く、何も言えず黙っている僕を見て、唇を噛む七居。それを見ていたら、妙に申し訳ないような気分になってきて。 『…ごめん。』 つい、謝ってしまった。 『ごめんって、何?俺が男だから?』 …男だから? と聞かれると、首を傾げてしまう。 『いや、別にそれは関係無いかな。』 素直な気持ちで答えると、七居の表現は更に曇った。 『じゃあ…何で…。』 『何でって言われても。』 『じゃあ、何で付き合ってくれたの?』 『それは…付き合ってって言われたから?』 そう答えると、七居の顔から一気に表情が抜け落ちた。 『……そう。』 そう言ったきり、気不味い沈黙が流れてしまい、流石に興味が無い事を正直に言い過ぎたんだろうかと反省した僕が何か言おうと考えていたのに、先に沈黙を破ったのは七居の方だった。 『それなら、俺が付き合ってって言えば断らないって事だよな?』 『…まあ。僕のペースを乱さないでくれるなら。』 モテない僕に付き合ってなんて言う奇特な人は他に居ないと思うから、付き合う分には構わない。だけど、タイプも違って趣味も合わない僕と付き合っても暇だと思うんだけど。 戸惑う僕に、七居は言った。 『じゃあ、付き合って。 俺、出原の恋人でいたいから。』 『あ、うん。』 僕なんかの恋人でいたいなんて、やっぱり彼は変わった人だ。 そんな経緯で再再度の交際に至った僕と七居だったが、復縁して暫くすると、七居はまた他の人間と付き合うと言って出て行き、少しするとまた戻ってきて復縁要請、という変なパターンが出来上がってしまった。 正直、面倒なのでもう他の人から次の他の人に流れて欲しいんだが、わざわざ僕に戻ってくるのは何故なのか。間が空くのが嫌という事だろうか。でも七居と付き合いたい人間なんて、次を待って列を成してそうなくらい居そうだけど。 そんな腐れ縁は、高校を卒業してからも続いている。僕は大学に進んで一般企業に就職、七居は美容系専門学校から美容師として一足先に社会人になった。 高校での出会いから数えて、足掛け6年くらいの付き合いだ。でも、実質僕と付き合ってたのはその内半分程度だろうか。 しかも、最近では僕と付き合ってる間にも平気で他の人間と付き合うようにもなった。僕が何も言わないから浮気OKのラクな恋人だと看做したらしかった。 僕を恋人に据えておきたいのはそういう気楽さや、宿の確保が理由なんだろう。 彼が僕と付き合い、浮気して暫く浮気相手の所へ行き、破局してはまた僕と復縁、というフロー。 実は社会人になってから、そこにもうひとつのプロセスが加わったのだが、七居はそれを知らない。 僕は就職が決まり社会人になると同時に家を出て一人暮らしを始めた。叔父の持っている物件の一つが空いて、そこがたまたま会社の近くで利便性にも富んでいた事から格安で貸してもらえたのだ。 それで初めての一人暮らしの快適さを満喫していたら、またしても相手と別れたと言って七居から連絡が来た。 せっかくの新居を七居に知られたくなくて、ああそう、と流して適当に濁しながら電話を切ったのに、翌日には退社時間に会社の前で待ち伏せされていた。 結局、マンションに上がり込まれて、物置に使っていた四畳半の部屋を提供する事になって今に至る。 その時は、どうせ2ヶ月も経たずに新しい相手を見つけて出ていくだろうと思ったのだ。 それが甘かったとは、直ぐに知る事になった。 それから間も無い内に、七居はマンションにも浮気相手を連れ込み始めたのだ。 七居が大っぴらに浮気をするようになり、平日休みを良い事に僕の不在中にマンションに浮気相手を連れ込む事が増えた事で、僕と浮気相手が顔を合わせるという事態が起きるようになってしまった。 最初は単純に面倒臭いし気不味かったので、自分の部屋か相手の家かホテルへ行ってくれとクレームを付けたのだが、落ち着かないからというよくわからない理由で頑なに僕らのマンションに連れてくるし、たまには自室でヤってるようだが大抵はリビングやバスルームで励んでいる。 共同で使う場所をそんな風に使われて迷惑だったのだが、その内諦めの気持ちになった。 もう好きにすると良い。 元々、寝室にしてる僕の部屋にだけ鍵を取り付けてある。その鍵のスペアは会社のデスクの引き出しに保管してあるし、寝室にさえ侵入されなければ後は好きにしろという気持ちになった。只、使った場所はきっちり清掃してくれとは口酸っぱく言って。 僕は最低限、自分のスペースが確保されれば良いと妥協したのだ。 その妥協が、僕に新たな面倒事を生むとも知らず。そしてそれが、先に先に述べ、これから話す『もうひとつのプロセス』、なのだ。 七居の新たな浮気相手達に遭遇するようになった事により、何故かその人達から接触を図られる事が増えた。 嫌がらせという訳ではない。まさかの告白だ。 『一目惚れしてしまった。七居と別れて自分と付き合って欲しい。』 これが、彼や彼女達による共通した要望だ。 意味がわからん。 七居は僕と浮気相手が遭遇すると、迷わず僕を今の恋人だと紹介する。そして、その場で堂々と浮気(本気?)宣言をして、翌日には出て行く。 つまり、一応は七居の恋人という立場にある僕にとっては、七居の浮気相手である彼ら彼女らは、本来歓迎出来ない人間。一般的には相容れない関係性という事になると思うのだが…。 彼氏の浮気相手に告られるって、どういう状況?と、僕は困惑した。 勿論、僕がそれにYESという事は無い。別に七居に操立てとかそういう事じゃなくて、面倒事が嫌いだからだ。それに、彼らが本当に僕なんかに好意を寄せる筈がない事もわかっている。 だが、彼らは言う。 『七居のような浮気者より、自分の方がアナタを大切にできます。』 と。 いやいや。 幾ら最初は知らなかったとはいえ、僕の存在を知らされてからも七居との関係を継続してる君らにそれを言う資格は無いんじゃないだろうか、と僕は苦笑して席を立つ。 僕は七居以上に、彼らに興味が無いからだ。 『僕を別れさせて七居を独占したいのなら、直接彼に言って下さい。 僕から別れを切り出しても、彼は七居は聞いてくれないので。』 そう言い放つと彼らが否定するのも、お約束だ。 今迄はわざわざ七居に告げて揉めさせたくもないしと黙っていたのだが、そうも言ってられない事が起きてしまった。
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