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インクを譲り受け、晴幸が直ぐに暇するつもりが悠聖はそれを許さず、結局出前の鰻重を振る舞われ、断り切れず一緒に食べることとなってしまった。
鰻重を食べ終わり、女中の運んで来たお茶を啜った晴幸は、
「桐ケ谷先生、今日は誠に有難うございました──そろそろお暇させて頂きます」
腰を上げて挨拶を向けた。
座椅子に凭れて頷いた悠聖だが、立ち上がった晴幸を視線で舐め、引き止める声を発てた。
「どうだ晴幸。俺の書生になる気はないか? 家へ来い──」
突然の申し出に驚いた晴幸が振り向き、反射的に断りを口にし
て顔を振ると、悠聖は急に子どもっぽく口唇を窄め分かり易く剝れ顔を作った。
「俺ならこんな時刻、しかも雨の中、夕飯も与えず書生をお使いに出したりせんぞ」
雷斗を非難され晴幸は慌てて顔を振った。
「違います、桐ケ谷先生。自分の失態で、自分の意志で出て来たのです」
「ふん。そんな割烹着姿で……どうせ書生の体でコキ使われてでもいるんだろう?」
吐き捨てるように出た、己の言葉に煽られたかのよう悠聖は立ち上がると晴幸と対峙し、
「俺のところに来い。可愛がってやる──勿論……夜もな」
下卑た嗤いを溢し、腕を伸ばすと晴幸の身体を膝の上へ引き落とした。
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