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出会い ⑤
「あ!僕、もう行かないと!」
スマホで時間を確認した伊織が、名残押しそうに和の手を離した。
「実は僕、今から入学式なんです。でも今は式のことより、和さんと早くお茶したくてドキドキしてます」
和に考える暇を与える間も無く。伊織が一気に話す。
「それじゃあ、和さん。式が終わったっら連絡します!」
そう言いながら、伊織は駆け出した。
…と思ったら、急に踵を返し、和のもとに帰ってきた。
「あと、僕のこと『伊織』って…呼んでください」
顔を真っ赤にしながら伊織が言うので、和もつられて顔を赤くした。
「伊…織…」
体とは似つかわしくない小さな声で、和は伊織の名前を呼んだ。
「きゃっ」
和に呼ばれて思いの外照れたのか、伊織はますます顔を真っ赤にし、両手で顔を隠す。
「和さん…、行ってきます…」
それだけ言うと、伊織は全速力で走り出した。
………。
さっきの出来事は、なんだったんだろう……。
今まで和の身には起こり得なかった出来事が、嵐のようにやってきて、嵐のように去っていった。
疑問を感じる間も無く、それについて聞く間も無く、たっだ呆気にとられている間に、出来事が進み、終わっていった。
あれは白昼夢か、俺の願望なのか?
もしそうなら、俺も相当疲れてるな…。
入学式が終わったら、即座に帰って寝るか。
時間を確認するためにスマホを取り出し、少しの好奇心からメッセージアプリをひらくと…。
あった!!
そこには新しい友達として『坂下伊織』の名前とともに、可愛い猫のアイコンが登録されていた。
やっぱり夢じゃなかった。
嬉しいような…。
それより自分のことを怖がらなかった人と出会えたことに、驚くを通り越し驚愕する。
先ほどまで伊織と握っていた手を見ると、やはり手汗をかいている。
「やっぱり本当だったんだ…」
伊織との出会いを噛み締めるように、和は呟いた。
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