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 おかしいな。  お金を貰ったからそのままトンズラ、というタイプには見えなかった。  私が訝っていると、突然背後から、柔らかい感触が押し寄せてきた。  彼女だ、アヤセだった。  彼女が私の背に体重をかけてもたれているのだと気付いた時、私は全身の血が沸き上がるような熱気を感じた。 「……コウジさん……やっぱり、このまま帰るなんて、ダメです」  彼女は背後からそう告げた。その口調が何とも熱っぽい。 「……ちゃんと、朝まで、一緒にいさせて下さい」 「……そんな、そんなこと……」  私の中の紳士が、私の中の獣の襲撃を受けて防戦一方となっている。  このままではまずい。私は紳士であり、善意を振りまくアクターである。この程度の色香に惑わされてはいけないのだ。  ――その時、彼女の身体が更に一段回強く私に抱きついた。  ひしと腕を回し、私の背に彼女の肉感と体温が、直に伝わってくる。  私の中の紳士は、鼻血を出して倒れた。 「……いいのかい?」 「……はい」  私は振り返ると、彼女の両肩を掴んで身体からゆっくりと離した。 「じゃあ――場所を変えようか?」  私がそう発すると、彼女はニヤリと微笑んだ。 「はい、コウジさん、アウトー」
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